第36話

「いちばん近くて遠い距離ですね。」




あたしは、指折り拳を丸めたままの彼の前で、開いた手の平を天井に仰がせた。




ひら、と。



仰がせるそれを一緒になって見上げるらいおんさんが、「どうしてそう思う。」と、問うてきた。





「んー……、どうしてでしょう。」



「どうしてだ。」



「中学一年と高校一年で、同じ一年なのに、間に流れているのが三年という月日だから、ですかね。」





「ふーん。」





ふーんて。



掲げた左手を、右へ、左へ。動かすと、それを懸命に目で追うらいおんさん。



まるで、本当に、ねこじゃらしを追う猫の目みたいだ。




それが可笑しくって、思わずぶっと噴きだしてしまった。


すると、彼は急いであたしに目を向けたようだ。

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