第34話

何だか、目の前で溶けて消えてしまう泡を見ているような感覚に襲われる。


急かされたように、慌てて口を開いた。





「あの、貴方のお名前を伺っていなかったと思って。」





あたしは彼の、表情を変えようと思ったのだ。




彼は、名乗るという行為すら忘れていて、元から頭になかったというような表情を見せた。



名前か、と、呟いたくらいだから。





「……鹿妻、」





「か、ずま?」




「ああ。」



「ええと、じゃあ、どう書くんですか?一に、馬?それとも、真?」




「“鹿”に、“妻”だ。」





らいおんさんは、あたしを映した綺麗な睛を逸らして言った。



同じように綺麗な指先で、手の平に字を綴る。

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