第33話

それから、僅かな沈黙。


緩やかにあたしたちの間を流れるような、そんな空気に包まれて、あたしは少しだけ笑みを口元に携えていた。





「――――らいおんさんは、」




そう言って、は、と口元に手を添える。




「……らいおん、」




彼はあたしの言葉を繰り返して、不思議そうに目を丸くした。


つい。

心の中で呼んでいた声が出てきてしまった。





「き、気にしないで。」




人にらいおんさんだなんて、なんと思われるだろうと、恥ずかしさに俯かせた顔。



でも彼が何も言わなかったので、こっそり上げた。




と。



やさしい、やさしい笑みをつくったらいおんさんが目の前にいて、びっくりした。



彼は、小さく微笑んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る