第32話

当たり前のように、あたしの向かい側に一度は胡坐を掻いたらいおんさんだから、いくら引き寄せられたからといって、あたしたちの間にはまだテーブルがあった。



彼は、大きいからすぐ傍に来れるのか。



それから、そればかりに気を取られていて気が付かなかったけど、らいおんさんって。




着物?



ううん。浴衣を着て居られる。


淡い、山葵色に縦縞が薄らと入っていて、上質そうな浴衣だ。







「ふふ。」




摺り寄せられるようにあたしの左耳の後ろに、らいおんさんの左耳が降れている。



ちいさく上げた笑み声に、彼はぽけーっと顔を上げた。




「あ。ごめんなさい。くびすじに貴方の睫毛が当たってくすぐったくなっちゃって、つい。」



へへ、と頭を擡げて笑うと、元の位置に戻ったらいおんさんは素直に首を傾げた。

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