第30話

「さおり、触ってもいいか。」





「え。」



臆病を目の前に出したまま、狡い狡い強い睛であたしを。


縛ろうと。しているのがわかった。





どう答えを出していいかわからず戸惑いを映すと、らいおんさんは身を乗り出し、強い腕の力であたしの頭を自分の方へ引き寄せた。



「んく、」



喉の奥の方から不安定な声が落とされる。





彼は、上唇と下唇の間に、隙間をつくる。





食べられてしまうのかと、思った。




真っ白な歯に。





噛み砕かれてしまうのではないかと。心臓が。悲鳴を。





らいおんさんはそのままあたしの額を自分の首下に押し付け、軽々、髪を通り越してあたしの項にくちづけをした。







咬み痕をつけるように。

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