第28話
「貴方は、不思議なひとですね。」
ゆっくり姿勢を正して前に視線を据える。
それからでないと瞬きができなくて。
「……あたし、尾崎 沙織と申します。」
穏やかな気持ちで名を口にした。それは、それが、今のタイミングにあると思ったからで、変わった意味はない。
そうしてらいおんさんを見上げた。
「さおり、」
らいおんさんはまるで、透き通っているか、濁っているかも分からないような池の真ん中に、真ん丸い月を浮かべるような、突然それを実行するような、そういう言い方をした。
ぽっかりと浮かぶ、丸い月。
彼が今声にしたあたしの名前には、その音が似合うと思った。
だって、夜が拡がった。
あたりいちめんに。
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