第6話

ふわわと甘いスポンジが飛んだ。笑顔を魅せられ、それにがっしり飲み込まれてしまったと思った。




『大丈夫、怖くないですよ。一人息子の坊ちゃんが独りぼっちでは可哀想だからとお頭さんが求人を決められて。本当に怖いのはお頭さんで、彼は今此処にはいませんから。』




男性は今明らかに“怖い”ことを言ったとは思えない様子で立ち上がり、何気なく膝に付いた泥を払った。


そうして壁に掛けていた竹箒を手にする。




『ね。』




ね、とは。




『で、明後日から来られますか?お昼前にすぐ其処の玄関扉を叩いて頂いて、もし反応がなければ勝手に中へお入りください。』




更にはその玄関の方を向きながら『朝のうちに僕が鍵を掛けずに出ていきますから。』と付け加えられる。



あたしはただ、物腰柔らかなその横顔を見つめて呆然。




『お名前。伺っても宜しいですか?』


『へ。』


『若頭にお伝えするので。』


『あ、……、オザキ、……沙織です。』



『有難う、申し遅れましたが僕はハナブキといいます。』

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