第73話

ガキはそれについてそれ以上何も口にしなかった。「なんかわからないけど、赤い目の所に行っちゃうんだ」と話を戻して、もう触れなかった。



「…どこから此処へ」



「龍の夕」



龍の、夕。



そうだった。


レオが、いきなり言い出したのだった。あの日は。それで私が私を連れていけと言ったか、ついていったかはもう思い出すことができないが――…。




「おれね、『約束』ってやつ、できないんだ」



思考の途中で、声が入る。記憶を辿っている中で、ガキに出逢うより早く。




「本当はね、たぶん、おまえともまだ逢っちゃいけないんだ」



自分が口にしている言葉の意味を、真に理解しているのかと疑ってしまうくらい大人びて、ガキは口にする。



「なのにもう、逢っちゃった。逢いにいっちゃった。強くなるまで逢えないとか、多くおまえの大切な友だち。殺してから逢いに来なきゃいけないっていうやくそく、ひつようなくて」





こいつは、何を云っているのだろう。




今にもまたあの雫が零れそうな眸をして。







「〝ごめん”。はやくあいにきて……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る