第74話

ご め ん


ハヤク

あ い に き て






その、瞬間それを聞いた瞬間。ぶわ、と身の毛がよだった。


初めて。

……永遠と云われた命の上を歩いてきて、初めて戦慄(わなな)いた。



外側は冷えきっているのに内側では血液が沸騰した。



泡が弾け、皮膚の下で逆流し始める。胃が圧迫されて苦しい。


押し出される気持ちの悪さに思わず胸を抑えようとしたが、指先が動かない。見下ろすと、

震えていた。


指先が、青黒くなっていた。


「……」


「どうしましたか」



レオの静かな声が響く。


何かが怖いのではないのに。

恐れているのではない。寧ろゾクリと背筋を震わせられたこの時を待っていたかのような気さえして目の前の未知を見た。





「…………あ、あ。そうか……。御前が」




声は震えた。


不安そうに泣きそうに、けれど決して逸らされることのないあおの瞳を、見つめ返した。




きっと、忘れてしまう。



きっと今この瞬間のことなんて、誰も。


それでも。



また、思う日が来るのだと直感した。


憶えてから忘れてしまうまでの長い時の先を想像して、いいようのない気持ちになるのもまた、初めてのことだった。




忘れて、しまうだろう。 そう、きっといつか。






早く

(君が)

忘 れ ら れ る よ う に










ガキ。



は、震える手を震える私の手へ伸ばした。



心臓なんてモノ、ないのに、私は、私の心の臓器がいたいいたいと鳴く声をこの耳で聴いた。




そして私は、その手に触れることを許された。

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