第69話

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空に、愛した三日月が昇る頃もう一度見た主の背中にはもう御羽が生えていなかった。



誰も、この方を此処へ閉じ込めてなどいない。もし閉じ込めている誰かがいるのだとすれば、私の筈だ。



「――…」



ベッドの下で膝を着き、手を差し伸べる。消えないでほしいという願いを込めて呼ぶこの名は、あと何度叶うだろうか。


「わるいな」



御羽のない主は私の腕に抱かれ、肩越しに三日月を見上げる。




私には羽など無いが、…きっとこの方は、羽より軽いのだろう。






『主、主』



もう思い出せない記憶の片隅にはいつも誰かがいて。


目の前の主だけが、私の現実の全てだった。




何もない、夜へと足を踏み出す。




下ろしてくれと頼まれてそうして焼野原のような地に降り立って、夜が好きだと嬉しそうに天を、仰ぐ。



「真っ暗だ。この真っ暗はどこまで続いている」



「それは「まっくら」




何かが、被った。



主の足元で何かが奇妙な動きをし、咄嗟に警戒レベル10000に達した私はこの尖り狂った靴でそこを蹴り上げに向かう。



「ウワァーーッ!!」



「むッ!?!!?」




……避けられた……だと。



その後何度か踏み付けるも軽快に避けられ続ける。



「このッ、この!」


「ギャッハッハ!!」



笑っている……?



「上流アクマか」


「ちがう。このガキ…」



ガキ?



主の見下す方を追うと、何かがゴロゴロと笑い転げていた。


これには、憶えがある。それも、つい最近。ごくごく最近だ。

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