第68話

まるで、脱ぎ捨てられない。


脱ぎ捨てることは永遠に叶わない。


業、を、表しているようだった。





「私が見えますか?」



ふと覗き込んだレオの、銀の絹のような髪を見る。それはさらりとありもしない音が聞こえてきそうなくらい真っすぐと床へむかって伸びていて。


思わず、動かない両腕の代わりに上半身を前へ倒せば、レオは解ったように額を寄せてきた。



レオの額には、薬指の半分くらいの長さをした小さな角が生えている。



私に触れぬよう、ぎりぎりまで。



レオは近付いて私の伸ばしたかった両腕にすくめられた。




その内すんすん、と嗅ぐ声がして眸を上げれば、レオは無表情のまま小首を傾げたそうだった。



「……何だ」



「いいえ」



いいえってなんだ。なんなんだ。


レオの眸は黒く、左目には三日月のような傷が入っていて、それを見て何となく言ってみた。




「れお。今夜なら、外の世界へ……出られるだろうか」



レオは黙って私の二翼をちらりと。


「御羽が」



「これか……。これならしまう。しまったら、出られるか?」



レオは、何か言いたそうに口を噤む。



私は掠れ声で、「ああ、さっきの問いに答えてなかったな。見えている、レオ。私はお前が見えている」と伝えた。



「…はい」



ああ。


笑わないレオ。


今は笑ったところが見たい、なんて思ったのだ。私は、


私は、わがままだろう。

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