第66話

一瞬で、抜かれたレオの剣がガキの喉元へ真横から突き立てられる。




「主、命を」


視線も上げず命を請うレオ。剣先は迷いなくガキの肌に触れ、今にも先にある肌を引き裂こうと爪を立てている。



「……っ」



私は、言葉なくガキを見下ろしていた。おかしい。


魔力が、弱まっているのだろうか。

わからない……。



けれど許しなく私に触れた者は時さえ待つことなく灰になっているはずなのに、このガキは、今も確かにそこに在る。



何故、か。



「このにおい、なに――?何のにおい?」



ガキは、顔を上げて一心に私をあおへと誘った。


顔を上げたことでレオの刃が首元へ刺さり、赤いものが伝う、


それでも不思議そうな表情をして問うたのだ。


『このにおいがなに』かと。


におい?



先程レオの口から告げられた『龍の夕』で喰われたという左耳はエグく抉られ、そこからも固まりかけた血の色が濃く痕を遺していた。



「ねぇ」



問い掛けは続く。


「何?」



そう、唇が動かされる度無情なレオの刃は深く刺さり流れる血液の量が増える。


「どうしてあんたは、こんなにおいがする」





……?







「捨てろ」



レオと呼べば生かしたままかと声が飛んできた。黒く尖る剣は収められていない。それどころかガキの血液を美味そうに吸い上げている。


「兎に角だ。捨てろ。外へ放り出せ」




「ハァ、…仰せのままに」



剣は空を切り、"美しく"持ち主の腰元へと戻っていく。剣を離れた黒い爪の右手に皮の手袋がはめられた。



ガキの頭を掴み、有無を言わすことなく引き摺りだした。



ガキは、瞬きもせず私の方へ顔を向けていた。



自分が投げかけた返ることのない応えをずっと、待っているようだった。

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