第65話

含み笑いをしたあとベッドにいる私に歩み寄ろうとしたレオの服の裾を思い切り握り潰す心臓のあるもの。


ん、と振り返るレオと見つめる私。それは、レオに行くなと指先で表しながら視線は私から逸らさなかった。



「…。気持ちの悪い餓鬼だ」


吐き捨てたレオは引き留める小さな影を無視し、私の傍へ引き摺ったままやってきた。


1メートルほど距離をとったそこに、壁際と変わらない姿勢で私の方を向く二人。相変わらず引き摺られたあとの『ガキ』は瞬きひとつせず私を見ているが、よく見るとレオを握る小さな手がガタガタと震えていた。



私を、怖がっていることはわかった。




「具合はいかがですか」


「あ、ああ、もう大丈夫」



「嘘を吐くに決まってますね。今の問いは俺が愚かでした。いくら貴方の回復力が比較対象のないほどだとしても酷く衰弱していらっしゃることに変わりはないのに」



レオの表情は変わらないが、下らないことを思っているのはわかる。



「鱗でないということは何になるんだ」



話題を変えたことは恐らくバレているから、私は視線をガキに定めた。


意地の悪いレオはそれにすぐ応えない。



「そ、そもそも…っ口は利けるのか」



するとレオはガキに向き直り、声を出せとでも言うかのように顎を上げた。




「…………な、みだ」




「ナ、ミダ?」



初めて聞く言葉。



他の国のものだろうか。


言葉を辿ってみても何も返さないガキ。



「む、無視をするな!」



「あか」


「え」


「……あか」



初めて言葉を繰り返した。アカ、と。



私の瞳を見つめていっていた。





そして、レオの服裾は小さな手から放された。



しわくちゃになっている。


しわくちゃになったその部分、私だけが見てしまった。そこがそうなっているところなんて見たことがない。レオに見つけられたらと思うと、怒り狂う姿しか思いつかない。



すると突然、右っ腹の辺りにズシンと重みを感じ、鳥肌が総立った。



急いで見下ろすと、ガキの顔が埋まっていた。

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