第64話
……次に意識を取り戻しかけたとき、やけに身体が重かった。
身体が怠いとかそういう感覚ではない。物理的に…重い。重いぞと思って小さく唸り、身を捩じらせようとしても錘を乗せられているようだ。寝返りがうてなかった。
えっ、何故?私寝返りうちたいんだけど何故。
「……」
薄らと瞼を持ち上げる。
バッチリと“ナニ”かと目が合った。
「キャァ!!」
“ナニ”かは私の腹の上に乗っかり見下ろしていた。
というか凝視だ、凝視!
腹が振動するほど地を這うような悲鳴を上げた私に物凄く驚いたというリアクションをとった“ナニ”は転げ落ちるように腹から落ち、手足をよたよたと彷徨わせながら、広い寝室の端っこの壁まで行き着く。
かなりの間が存在したが待ってみた。
足の裏を向けた方にある壁を背に、爪先立ちをするようにして震え上がっている生き物。私は何時間眠っていたか知らない軋む上半身を起こして見つめ合う。
「ギャァァアアアア!!!!」
「!?」
突如としてそいつは大きな瞳を更に大きくして叫びだした。
威嚇のようなやり返しのようなそれは、小さな身体から発せられるには充分過ぎるほど城中に響き渡る。
「ギャァア!!アア!!アーー!!」
な、何だ!!?悪魔か!?
見開かれた瞳から大きな何かかぼろろと零れ落ちてきて、何だと思ったその時、寝室のドアは破壊されたかと思うほど雑に開かれた。
「ギャア!ギャーー!!「何事ですか!?」
「ワアーーッ!!ギャギャギャ「おやおや死をご所望かな」
レオである。
レオはあれ黒目どこイッちゃったのというくらい、ほぼ白しかない切れ長の目をそれに向け何かを呟いた。
するとそれが背にしている壁から真っ白な腕が数十本という規模で生え、総動員で生き物の口を抑え込んだ。
「むっ、むぅーーっ」
けれど四肢を動かし諦めず、まだ声を上げようとしている。レオは近付きしゃがんでやり、私に背を向けたまま何かを言っているようだった。
数秒後、抵抗はなくなり腕たちは壁へ戻っていく。
なにをいったのだろう。
「すみません、まさか此処にいるとは」
立ち上がり、頭が痛いと長い裾を払うレオは続けてぼそりと呟いた。
「というか貴方に触ることができるとは…」
「?何だ?」
「いえ」
「……。それは」
城に入れているということは大よそ、何らかの理由があってレオが連れてきたということだろう。
生き物はレオの背に隠れながら、うえぇと情けない鳴き声を発して腹辺りの服を握り締めている。握り締めて、こちらを見ている。
「これは」
「瞳から――鱗が。魚人(うおびと)の類か?」
段々と回復に至っている目を細めて見るも鱗は流れっ放しになっている。病に罹っているのか。
「私は魚人のような下等生物は食さない。あのようなもの!不味い!」
「これは、魚人ではありません。…貴方を寝かせたあと戻った『龍の夕』で耳を喰われて泣き叫んでいるところを無視したのですが後をつけられ仕方なく野放しに」
「なっ、野放しにしたのかばか者!」
「主、私に心臓の在るものを飼うのは無理かと」
「うるさい!」
「ふふ」
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