第55話
彼女は固まったまま動かなくなってしまった。どうしたのかと思い顔を覗こうとすると耳の端が真っ赤に染まっていることが分かった。
ふと込み上げる愛おしさは、いつからのものか。
変わらない。
震えるような白い項に言葉を囁きたい気持ちを堪えて待ってみると、その内消えそうに問うてくる声が届いた。
「なつ、かしい…?」
「…うん。分からない?」
「わ、かりませ…」
「想い出せない?」
「想いだす……?」
「梨句の夢はどこまで“在る”?」
彼女の赤はもう首元まで薄らと這っていた。
それで絞りだすように「涙が……」と続く。
「手の平に落ちてきて」
「ああ、泣いたから」
「貴方…、が」
彼女がこういうとき俺を今の名前で呼ばないのは、意識してなのかそれとも無意識に、なのか。どちらだっただろう。
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