第56話

「ああ、梨句は泣かないもんな…」





呟いて身体を起こす。続く衣擦れの音の方を追ってそっとこちらを見遣った彼女は服を脱いだ俺にびくりと反応を示した。




「……」




それを見て瞬きを一つ返し、両手を上げて「もう何もしないから」と笑いながら腕を引いて彼女を起こすと服を脱いだ上半身の所為かこちらを見てくれなくなった。




「悪い、りく。こっちみて」



無理矢理頬を挟んでこちらを向かせる。




「俺に傷がないって…分かる?」




かわいいことに、薄目でそれを確認する彼女。肌に触れられる時間さえ名残惜しくも手を離して言葉を続けた。



「でも、ここに」



「腕…」



俺の肩から腕にかけてには十二、三センチほどの切り傷の痕があって、それを見せると確認するように触れてくる。




確認して、心配するように。





そんな梨句を抱きしめたかった。





「経験積んで、必ず倒せるって確証をもって挑んだ。…俺が梨句にその傷を負わせたのは事実で思い込みなんかじゃないけど、“何故か”俺はそこまで遺る傷は腕にしか負わなかった……」






「…?」







ごめん。





ごめんな、梨句、本当は、――――。

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