第54話

「傷。見ていい?」






俺は、問うた。





梨句は戸惑ったように言葉を零し、視線を泳がせた後で小さくちいさく頷いて寝返りをうつ。



向けた背の、服を捲くって細い背中を露わにした。



肩甲骨と然程変わらない位置に、肩甲骨よりも大きく抉(えぐ)られたような痕が遺されている。



それを繋げて引かれた一線の傷。




ひどく痛々しく映るそれに、堪らず口づけを落とした。




「ひゃ」



弱く、跳ねる背中。



「か、梶くん…?」と困ったような声色が聞こえてきて、俺は笑みを携えたままごめんと謝って「なつかしい」と口にした。





それはさっきの、この時代の梨句と比べての懐かしさではなく。




もっと。






もっと遠くの――――――哀しく愛おしい、終焉の想いに対して向けた言葉だった。

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