第43話

一瞬、止まる思考。動き出せば「え……?」と「う、うそ……」が口の端から零れていく。




痺れた頭の中で留まることなく続いた彼の声は、冗談事のよう。




「嘘だと思う?想いあって、愛しあってた。…本当に、それこそ嘘みたいにさっきまで」





冗談、を、言っているようだけど。




多分……うそじゃ、ない。




私の願望かもしれないけど、ずっと、ずっと好きだったひとのこの声が、嘘に聞こえなかった。





私は混乱の中、震える手で顔を覆う。







「そうやって、可愛い反応して煽ってくるところは変わってない」





「―――…」





「見た目より柔らかい髪も、いつも真っ直ぐ見上げて、追いかけてくるこの大きい瞳も少し尖った耳も」







彼はまるで、私のことだけど私ではない誰かのことを言うように――――それくらい、いとおしそうに言葉をなぞっていた。





それが凄く、ふしぎだった。




貴方は、私にとって夢のようなひとだから。

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