第42話

それは未来の私へ、「やっぱり、“忘れられる”ことはつらいな」と伝えているみたいな台詞で。





それを聞いて、思わずごめんなさいと口を開いてしまう前に遮って頬に触れた彼は、



私をベッドへ押し倒した。




「……いい。何も言わなくていい」




頬が紅く染められるより早く、正直な身体は硬直する。今度は私が目を丸くして彼を見上げる状態になる。私よりずっと先に、大人になった彼はわらったままの笑みを残してくれていてやさしかった。




けれど私はそこに、きっと永遠に思い出すことができないであろう今までの彼をみたいと思ってしまって。




後悔のような想いは、彼から降り注がれて流れてきたものだったのかそれともこの身体だけが遺してくれた、知っている記憶だったのか。




もう、叶わないだろうけど。




私の知るということは、教えてほしいと思うことの全ては、いつだって貴方だった。




それは、変わらない。



きっと、ずっと。







梶くんの大きな手が、私の首を撫でた。




くすぐったくて目を閉じる。




「……」



そうしたら声も降らなくなって、そろりそろりと瞼を上げた。



彼が野球部だったあの頃より、少し伸びた前髪で作られた影の下、静かに真っ直ぐ今の私を見つめる瞳と目が合った。




「こういうことする関係だったって言ったら、伝わる?」




変わらないやさしい笑みに、溶け込んでいて気が付かなかった体温と熱。



それは、未来の私に向けられたもの。




今の私には抱えきれず、零れてしまうほどの熱だった。

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