第37話

壊れそうな表情は、私の心をいとも簡単に捕える。




「…なん、で」




“ありがとう”なの?





笑顔の名残を魅せた彼は、再び額を寄せる。



開いていた瞳が誘われて閉じ、胸が焦がれるほどの想いが伝わってきて味わった。


離れた彼は重ねていた手の平を解き、掬った私の手の平に光を差すように唇を寄せ…静かに、目を閉じた。







いつか、聞いたことがある。



オーストリアの或る人が記した、







――掌の上のキスの意味は、【懇願】だと――。









“貴方”は一体、


何を願っているの……?









「何で、って」



くす、と笑われた恥ずかしさが瞳に映る私を彼は覗き込んで。



“嬉しかったから”と、少しかなしそうに目を細めたのだ。

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