第23話

彼の唇が触れたところから世界が歪んでとろけていく。




時折小刻みに震える身体を押さえ込むように見て見ぬふりをするように、彼は、あまくも冷たい肌を触れ合わせていった。



ほどけかけた縫い目を、敢えて一からではなく其処から縫い合わせていくように。




唇が触れて。



それを辿るように指先が触れる。



唇が触れて。


指先も触れて。


唇がまた、ふれ――…



その内わけが判らなくなるくらい溺れた。シーツの上に散らばった髪が啼くように流れ揺れた。


手は繋がれていなかったけれど、只管甘やかされる。





「待っ……、っ、や」




だめ、だ。駄目、駄目、待って、待たないで。零れる吐息の隙間で譫言のように繰り返す。彼の唇は覗く私の腿に優しく触れる。



「あ、待って、まって……」





涙が。




泣くということが。やっぱり出来ない。どんどん呼吸が絶え絶えになっていく。浅い呼吸を繰り返すスピードが、勝手に加速していく。







「…………梶、く」




「――!」











小さく呟いたら、ふと顔を上げた星屑の眸はまるで夢みたいに消えてしまった。









あまいと感じるのは、アイしているからなのに。呼び掛けた名前のひとかどうかの前に、   を。私はそれに気が付けない。


私は私は、また、消えてしまった彼が残した星の屑を、茫然としてかき集めるのだ。夢から醒めてしまったら消えてしまうと解ってはいてもそれを両手の平に乗せてたった今彼がそうしてくれていたように唇を寄せることを止められなくて夢から醒めるまで永遠に。



『高一の春から』確かに彼を想っている。

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