第21話

命令に従うように、唇を開くと。




「――!」




急に、彼の舌は深く咥内を侵食して、数秒も経たない内に脚に力が入らなくなる。



ガクガクと情けなく震えているのをわかっているから、彼は私が後退っても痛くないように壁との間に手を回して髪に触れ、もう片腕を腰に回して支えてくれた。





で、も。




甘くて。



あまくて。




溺れそうになって、息継ぎが上手にできない。





「……っ、……ン、んぅ……」





待ってと胸を押してもさらりとした肌の感触が伝わってくるだけで、彼に届いてくれない。角度を変えて、何度も覆い被さって、力を抜けさせてキスだけで腰砕けになったところを抱えられた。



泣きそう、だ。





「……ハ、リィは此れに弱いな」





余裕の笑みさえ魅せて私をベッドへ運ぶ彼の耳に揺れた、碧い雫型のピアスを眸に映しながら、私の脳内はもうとっくにぐずぐずに侵されていた。




貴方が上手いんだ、きっと。どんなに上手なひとだって、“こう”なる。




そう言いたかったけれど、抜けさせられた力のおかげで言えなかった。






「……重、く、ないですか」






惚けた頭のまま、軽々私を抱えた梶くんの腕を凄いなと思いつつ見上げて、口を開いた。梶くんはきょとんとした表情で私を見下ろして、「何が?」と微笑った。





微笑ってくれたのに何処か余裕のない表情に、ゾク…と震える背筋。

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