第20話

『いいよ』が、どういう意味だったのかは解らない。



届かなくてもいいという意味だったのか、その先の彼が自ら近付くからという意味でのいいだったのか。






「ふ」




浅いとはいえ不慣れなキスに、吐息を漏らしたのは私。



……はずかしい。





彼は、仕方がないとでもいって笑むように、浅かった口付けに少し距離を置いて私に息継ぎをさせる。




細く伸びた月光を浴びるような睫毛にそれを凝視されて、待たれているようだった。




ごめんなさいを言い掛ける代わりに眸を上げる。




彼と、視線が交わって心臓が痛くなる、苦しくなる。





梶くんは、何も言わずもう一度綺麗な瞼を見せて私に口付けた。





「……っ」




熱をもたない冷たい舌先がくちびるのラインに沿って、びく、と肩が揺れる。




どうしたらいいか、わからない。




梶くんは優しく宥めるように私の顎に触れて、“口を開けて”、と声にせず教えた。





声にはされなくても、脳内に響くのは低く透き通ったようなあの声。




私は、梶くんのその声だけに従わされる。

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