第12話

ニッと口元を緩めると、松方くんもふと返したように見えた。


見えただけ。




「あ、でも私、泣けないんだ」




ぽつりと落とした言葉に、首を傾げる松方くんをみる。



「『泣き落とし』できないなーと」


「ああ。梶先輩相手でもですか」


「んーどうかな、人生、生まれた時以外で泣いたこと一回しかなくて」







「……は?」







彼が驚いたことに、私も驚いた。





「え……っと、そうだよね、変わってるんだけど。勿論感動したりはするんだけど、それが涙に変わることはなくて。思うだけ」




ちらりと様子を窺うも、松方くんは表情を止めたまま変えていない。



そうだ……確かに私、友だちにも涙腺弱そうとか言われるしなぁ。




「……。……、あ。で、でも夢。夢があった。まあ夢なんだけど、小さい頃からよくみる夢とかってない?そこでは泣いてる!!」




「夢」




そこでやっと反応を返してくれた松方くんにほっとして言葉を続ける。



「うん。ただの夢だけど、手に、涙の感触と温度が伝わって、泣いているって」









――――それは、すごく、つらくてやさしい夢で。





辛くて優しいだなんておかしいかもしれないけど、ぼんやりとした視界の中で生々しく心臓か心に痛いほど刺さっているあの感情は、そうとしかいえないもので。




小さい頃から時折みる夢は、みる度、0.5秒ずつくらい物語が進行しているような夢だった。




いつも同じところからスタートされるわけじゃないけど、なんだろう、匂いで、わかる。


その夢が、この夢系列のものだってこと。





「そのときくらいかな、わざわざ泣きたいって思ってるの」

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