第11話
もう、心の中で数えが追い付かないくらい繰り返された『すき』。
思うだけで身体は火照るのに、緊張して強張るのに、それを口に出したらどうなってしまうのだろうと、ひんやりとしたテーブルに乗せた腕に視線を落とす。
きっと、心臓は壊れてしまうだろう。
もう、甘さも苦さも感じなくなるかもしれない。まるで電気に焼かれたみたいに。
「……。あ、ごめんねご飯中、に」
語尾まで言いかけたとき、松方くんの左手が私の前髪あたりに触れた。
驚いて身を固める。
体温の感じられない彼の手は、僅かに乗り出して伸ばされたまま、私の頭の上で弾んだ。
「告白前の自分を見ているようで」
「へ……」
松方くんも、同じような想いをしたことがあるなんて、意外だった。
「上手いことを言おうとしているわけではありませんが好きでややこしいこと考えるくらいなら、好かれたいとか余計なことは考えず好きにすればいいと思います。相手も僕らに好かれようと生きているわけじゃなく、こちら側が勝手に堕ちただけで何とも思っていないようなので」
堅実な物言いの中に物凄い攻め発言を残した彼は、ついでに「初めは」と付け足した。
一瞬頭上に疑問符を浮かべたが、『初めは』が『何とも思っていない』に掛かることに気付いて、無表情な松方くんの前向き発言だったということを知って、耳まで真っ赤になった。
この子が親友の彼氏だと思うと、ゾッとする。
「泣き落としたいほど、縋れるレベルで好きならもうとっくに嫌われるくらいの覚悟は出来ているんですよ。岬さんもそういう風にとれますが。好かれたいどころじゃないのでは。手に入れたいとか、それくらい好きそうですよね」
「すきです」
「はい、元通り。あの手の“好きな人”には、悩むだけ無駄です」
松方くんもやはり、不本意ながら育美と梶くんは似ているところがあると感じているようだ。
主に、激しく集中的しておっさんくさい辺りだろう。
……そこがしぬほど可愛く、最高にイイのですが。
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