第10話
『つきあって』だけじゃ、だめで。叶わなくて。
だからそう言ったのだろうか。
「僕ひは、ひへはひへふ」
「ん?『僕には言えないです』?」
「……、よく解りましたね。そこ伝わらない予定でした」
「こういうの割と得意で」
「へえ。前世は聖徳太子だったんじゃないですか」
「いやあ、一斉にはどうかなあ」
「じゃあ違いますね、聖徳太子じゃない」
で、と。
『試しに』つきあってとは言えない、の続きを仕切り直す彼。
「例外でない限り、飽く迄恋愛感情としての好きを自分に抱いていない人相手ですよね。保険、掛けて好きになってもらっ…………岬さん?」
彼は、“両想い”の立場ではなく、“片想い”の立場に立って意見を言ってくれている。
「ん。私も試しにとは言えないと思う。単に、梶くんがそれに乗ってくれるところが想像できないからだけど」
すきに、なってもらうために何が必要なんだろう。
何が足りないとかあるのかな。
運?
努力?
大抵のひとが一度は経験するであろう片想いは、どんな想いに支えられているのだろう。
片想いを実らせるために必要だったのがその『保険』であったなら、それも間違いではないのかもしれないと思うけど、私は、多分。
「凄くすきなひとに嫌われる、勇気をもたないと、好かれもしないんだと思う。それくらい遠いひとだと、手の届かないひとだと思ってるのかもしれない」
今の私は、彼を『すき』としか想ってない。
『自分も彼にすきだと想ってほしい』と思ってしまえば、嫌われる勇気をもたないといけないから、きっと臆病になっていて。
すきだと想っていながら一歩踏み出して告げないのは、彼のことをすきだと告げない限り、関係の変わらない、彼から見て“育美の友だち”のままの私には、彼は今のままきっと、ずっと、優しいと予想しているからだ。
こわくて、結局は優しくしてほしくて、情けない自分がだいきらいだ。
それでそんなだいきらいな自分を、すきなひとに好きになってもらえるなんて思えなくて。
それでもすきで。
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