第7話

「ハァ……ッ梶きゅん……」





ファミリーレストランの端っこ席、物陰からそっと送る視線。



気付いてほしいような、気付かないでほしいような。やっぱり気付いてほしいけれども、気付かれてしまったら気持ち悪がられそうだから気付かないでほしい。




乙女心とは、複雑なものだ。





「あのー。お楽しみのところ悪いけどそれ、この前撮った梶の盗撮写真だよね?実物ですらないよね?大丈夫?絶対岬に気付くことはないよ何故なら写真だから」



「ちょっと育美ちゃんヤメテ!!!この世にあり得ないことなんてないんだから!!」



「それがあり得たら心霊写真だよ」



「梶くんなら許される」



「うわ末期」




がやがやと賑わう休日、夕飯時の此処で前の席に座っていた育美が、へらりと笑みを浮かべて口を開く。




「では、そろそろバイト行くかな」



「もうそんな時間か。あ、育美」




一人席を立つ彼女を呼び止めると、「松方のこと?岬と議論とか聞きたかった」と、口元を緩めて先回り。



流石だ。




『松方』とは親友である育美の、一つ年下の彼氏さんのこと。




今日はこれから、塾帰りの松方くんがあるものを私に授けるため、持って来てくださることになっている。



ついでにご意見も伺う。


ある種の勉強会だ。




「岬に変な入れ知恵したらぶっ叩くって言ってあるから」



「……それ松方くん喜びそうなんだけど、お仕置きじゃないよね?ご褒美だよね?」




それには育美は何も答えず、意味深な下衆顔のみを残してファミリーレストランを後にしてしまった。






数分後、背の高い松方くんがレストランの入り口へやって来たのが見えた。

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