第6話

その時、さっきつけたゲーム画面の中でのオープニングが終わり、冒険が始まった。




それに気が付いた弟たちは自然と俺を挟んで左右に腰を下ろす。





「こーちゃん、また魔王かよー。どんだけ勇者嫌いなんだよ」



「ほー。解ってるじゃん」



「だって勇者がいるのに魔王選ぶなんてありえねぇ!」




左側の弟1が慣れ慣れしく知った口を利く。



異論にふと口元を緩めてくしゃりと髪を撫でると、ゲーム機を持つ右手に湿った小さな手が触れた。




「ん?」



「ぼく、よめるよ」




じっと見つめる先の画面。



少し古いRPGの中に生きる、俺が動かすキャラクターに付けられた名前と、そのキャラクターの敵が持っている剣(つるぎ)の名前のことを言っているのだろう。



今、画面にはそのふたつしか文字が出ていないから。




「ほんと?……凄いな」




無意識にかちらりとこちらを見上げた弟2は画面に視線を戻して、その幼い眸に、青の光を灯した。







「ぐろりあ。――まおうのなまえ」






「……ああ」






「つるぎのなまえは、ぶるー……くろ、に、くる……」









青は、見ているといつか変化してしまいそうで。





色の中で、一番怖く美しい色だと思う。







「――――うん」









俺は、まだその名を呼ぶことを赦されてはいない。

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