第十六話 バラバラに離れた心

 喧嘩して二日目、一人で登校している。

 ナギを傷つけたことは、二日経っても変わらない。それよりも、もっと悪くなっている気がする。

 考えるだけで、胃がキリキリと痛んだ。どうすればいいんだろう……。後悔がどんどん迫ってくる。


「わ、ワオンちゃん……」

「…ナギ!? どどどど、どうしたの!?」


 曲がり角の前で、ナギに声をかけられた。肩の震えが止まらなくなってくる。

 二日喋ってなかったのにいきなり…ナギは何を伝えたい……?


「あのね…ワオンちゃんは悪くないんだ。なぎのせいだよ、ごめん」


 出た言葉は、攻める言葉だと思った。でも、ナギの口から謝る言葉だった。

 私は息を飲む。謝る必要があるのはナギではない、この私なのに、謝ってくれる。ナギはどれだけ優しいんだろう…。


「違う、謝るのは私だよ。私がナギを傷つける言葉を……私が悪いんだ」

「もう許してるから…大丈夫だよっ。それに私が勝手に傷ついて泣いてた、だけだから。」

「ナギ……」 

「でも………心の整理が…自分の思いと気持ちが噛み合わなくて、何をしゃべれな良いか分からないんだ」


 ナギは悲しそうな表情をしながら私を見た。

 私は何も言えない。


「ワオンちゃと話してもも今のままじゃ楽しくなれないと、思うんだ…。ワオンちゃんが嫌な思いをする、それはなぎ自身がイヤ。整理が出来たらワオンちゃんになぎから話しかけるね。ごめん」


 え……、私はうなずくことも出来ない。その間に、ナギはどんどん私から離れて行く。

 私が傷つくから……それで喋れない?

 ナギは優しすぎる。私のせいなのに…自分が悪いと思って謝りに来てくれた。

 そもそも、私がナギみたいな優しい人だったら、喧嘩も起きなかったかもしれない。


 「ごめんね」


 私は呟いたけれど、ナギの耳には届かなかった。



 〇┃⌒〇┃⌒



 あれからもう一か月以上も経つ。

 ナギとは喋っていない。邪楽も表れていないのが良いんだけど…。

 今日の体育館への移動教室も別々に来た。でも、六年以上の絆は切れること無いと信じている。

 いや、私が悪いんだけど、喋りに行く勇気がでない。

 今日は学年全体の体育で、ダンス! 小学生の頃はダンスなんて無かったから、楽しみなんだよね!


「ワオンさん。ダンス楽しみですね」

「もちろんっ! ゆずちゃんはダンスやったことあるの?」

「いいえ、全く経験は無いです」

「嘘~~! 毎回、ずば抜けて上手なのに!」


 肩の上にチョコンとミューちゃんが乗っている。ぬいぐるみみたいで可愛いっ。

 でも、ゆずちゃんは見えないから喋るのは我慢っ。


「そう言えば、先生方どうしたのでしょう」

「あれ?」


 私の目に映ったのは、壁に貼られている板。

 校歌が書かれていたはずなのに、何もかも無くなっている、ただ茶色い板が貼ってあるだけ。

 え、え……? 何でこんなことになるの!?


「どうしたのでしょう」


 ゆずちゃんは、冷静。

 でも、私は大混乱!!

 うん、まさか邪楽の仕業!?

 でも、普通ノーマル格上シニア神様エキスパートの三種類があるけど…どれも歌詞を消すと言うことは出来ないはず。

 先生、が外したとしか考えられないよね? そういうことにしておこうっ。 


「全員、集合!」


 先生の声に、急いで整列し準備体操をし、そして待ち遠しいダンスが始まる。

 音楽って、良いよね~。

 でも、歌詞が消えたことだけが、気がかり。


――♫♩


 音楽に合わせて、正体不明の動きをする。うーーん、難しい。体が思うように動かない。

 宇宙人のダンスみたい! タコダンス?


「ミュッミュッ」


 ミューちゃん、楽しそうだな。しかも、ダンスが上手! 見てるこっちまで楽しくなっちゃう笑顔だ。

 あ、いけない、私も踊らなくちゃっ先生に怒られるっ。もう、怒られるのは慣れたけど。


――♩♬……ジッ…ジジッ…


 音楽がだんだん小さくなっていく。

 え……、何だろうこの現象、見たことがある気がする。


「どうしましょう…」

「替えのCD持ってきます」


 先生たちが準備をして、もう一度曲を流す。でも……消えてしまった。


――ジッ……じジっ


 どうしたんだろう…皆が戸惑う中、腕を組んで何やら考えているアルトがいた。



 〇┃⌒〇┃⌒



 部活の時間になった。「ワオンちゃん」と言ってくれるナギはいない。だから、仕方なくアルトと来ることにした。


「すみませんっ!」


 音楽室に入ろうとすると、謝る声が聞こえた。私は急いで、扉を開けて中へ入る。


「どうしたんのでつ? …お、怒られてるまつ?」


 ミューちゃんは首をかしげる。

 怒っているのは顧問の宇神先生。十人ぐらいの先輩が頭を下げていた。


「楽器が無いなんてありえないっ! 吹奏楽部の部員として、楽器を大切にすることは重要なことだ、と入部当時に必ず喋っただろう」

 「本当に、…すみませんでした!」


 私はバッと、手に持ったトランペットのケースを見る。まさか私まで……無くなってる?

 その心を読みとったように、ミューちゃんがケースを開けてくれた。

 ………ああ、トランペットが無いっ、私のトランペットは私にあった作りになってるのに! トランペットは必ずケースに入れるようにしてるのに…何で!?私はすぐに頭を下げる。


「すみません、私もありません。本当にごめんなさい!」

「えっ!? 符川さんまで楽器が無いのですか?」

「……はい」


  先輩も先生も驚いた表情になった。うわ――ん、何で無くなったの!? 無くすような行動はしていないのに…グスンッ。


「実は、わたしも…無いんです………」

「僕も……無くしました」

「あたしもありません…」


 吹奏楽部部員の半分以上が頭を下げている。そんなに楽器が無い人が多いの……!?


「ハァ……そんなに無いなら今日の練習は出来ません。今日は臨時でお休みにします…。が、明日は必ず見つけて持ってくるようにして下さい! はい、解散!」


 宇神先生がそう告げる。

 臨時でお休み!? そんなに大きいことなの!? 探すの苦手だけど、大丈夫かなぁ…。見つからない気がするっ。


「ワオン、これは緊急事態だ」

「アルト? どういうこと?」


 あ、そうそう、アルトも吹奏楽部に入ってるんだよ。空気が薄くて、全く気づかなかったけど、ね。


「これは……邪楽だ」


 アルトの言葉にピンと来た。そうだ、格上シニアは楽器を消すんだった!

 アルトは当然と言う顔をしているから、出来るだけ分かってますの空気を出す。でも、ミューちゃんはビックリした。


「なるほどでつっ! さすがアルト君でつ~っ。あ、それなら早く止めなきゃでつね!」

「どうするんだ?」

「もちろん、探すんだよ!」

「でも……まぁ、探そう」


 そう言って私達は音楽室から離れた。



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る