第十二話 実は二匹!?

「オッホホ―――!」


 演奏が終わった瞬間、邪楽が笑いだした。え……、消えない!? 


「神様に認められたこの二人を」

「「倒すなんて無理、無理!」」

「…………!?」


 歩飛君が邪楽の声に、一歩前に出る。きっと怒っているんだろうなぁ。

 でもミューちゃんが歩翔君の爆発を必死に止めたから、何とか爆発しなかった。

 神様に認められた格上シニアは…すごい。


「何で……消えてないの?」


 ナギの声にハッとする。

 そうだ、邪楽が消えていないんだ。……失敗しちゃったんだ。格上シニアだから…?


「よし、あれをしよう」

「ええ」


 そう言って邪楽は、手を組んだ。そして、足を軽やかに動かして、ダンスをスタートする。…社交ダンス、かな?

 ファイト―ンがいる状況でダンスを踊るなんて、大丈夫?

 と思ったけど、それは私達にとって大丈夫じゃなかった。だんだん目の前が白くなっていく。そして、私はフルーツの海に落ちた。


「おっ…おえっ!!」


 下にはバナナにミカン、リンゴ……まさにフルーツの海。

 ううう! 吐き気がしてくる。今すぐここから抜け出したい。でも、どこに行ってもフルーツばかりで逃げる場所が無い。口の中にフルーツの香りが上がってくる。

 うう………私の敵フルーツがこの目の前に!


「なぎの話し方のせい…」

「父さん……」


 二人の声もする。声をかけたいけれど、姿は何も見えない。

 しかも座っているのは大嫌いなフルーツ! 

 ピョンピョンと飛び跳ねて触れないようにしていたけど、着地するとフルーツから汁が出て来る!イヤァ―――!

 甘ったるい嫌いな匂いが漂ってくる。もう嫌だぁ―――!


「ワオンちゃ。目を覚まずでつっ!」


 え、ミューちゃんの声がしたよね?

 すると、目の前にいきなりミューちゃんが出て来た。ミューちゃんがト音記号の形をした尻尾をフリフリさせる。

 こんな尻尾だったんだ、可愛い! なんて言ってるより早くフルーツの海から出たい。

 するとだんだん目の前が遊園地に戻って来た。


「おふちゃりちょも、起きるのでつっ!!」


 ミューちゃんは二人の前に浮いてから、また尻尾をフリフリさせる。

 すると泣いて腫らしていたナギも立ちつくしてうつむいていたアルトも、目を瞬かせた。やっと気づいてくれたみたい。

 何が起きていたの? と疑いたくなるほどケロッとしている。


「三人は幻きゃくを見ていたのでつっ」

「「「幻覚!?」」」


 あれは幻覚だったの? 匂いまでついていて、やけにリアルな幻覚だったな……。汁も飛び散って来たのはウソじゃない…はずなんだけど……なぁ…。


「そうなんだ……。でも幻覚で良かった…気持ち悪かったよぉ~」

「それは、どうでも良い。で、邪楽はどこだ?」

「あっ!……逃げちゃったでつ~~」


 逃げた?

 邪楽は幻覚に混乱させて、その間に逃げる作戦なの!? 格上シニアは今までよりもずっと強い。そして、パレードも無くしてしまったほどの威力がある。早く邪楽を倒さないと!


「逃げちゃのは、あちでつ」


 ミューちゃんが見た方向に私達は駆けだす。もちろん、ナギの手をつかんでたから置いて行くと言う心配しないでね! 私、偉すぎる!


「邪楽はどうして幻覚を出したんだ……俺達が想像しているよりヒドイ何かしようとしているのか?」

「そうでつきゃ……」


 どこに逃げたのかサッパリ分からなくなってしまった。

 このままじゃパレードは延期じゃなくて、中止? 世界ちきゅうからパレードが消える?

 マーチングが見たいのに……。もう遊園地で遊ぶ終了時間は三十分後だ。

 早く見つけないといけない。邪楽の思い通りになっちゃう!


「どっちへ行くか?」


 歩翔君が分かれ道で立ち止まった。


――ピンポ――ンッ


「皆さん遊園地は楽しんでいるかしら。ここで皆さまにお知らせがありますわ」

「パレードを中止する。以上だ」


――ピンポンパンポ――ンッ


 え、パレード中止なの……? 血の気が引いて行く。遊園地全体を動かす邪楽の力。手強い。


「ワオンちゃん…まさか本当に無くなったと思っている?」

「え、うん。もちろん?」


 ナギの発言にアルトが一歩、私に詰め寄る。


「語尾が変わってるだろ。『かしら』『わ』を使っていて違和感がある、ということは今の放送、邪楽だ」


 確かに、遊園地の放送だと、敬語を使っているイメージがある。

 でも、そんなことある!? 館内放送の仕方が邪楽にわかる?


「えっ…でも………邪楽が放送できる?」

「もしかしたら鍵を邪楽が奪ったのかもしれないよ」

「そ、そっか………」

「放送室はあちでつっ」


 私はまた駆けだした。



 〇┃⌒〇┃⌒



 放送室は走って一分もかからず、着いた。息が切れることも無い……運動が苦手…いや不得意のナギは疲れているけど。


――カチャッ

「あら~」

「ファイト―ン、来たのか! まあ、ここに来たところで倒せないだろうけど」

「オホホッ」

「アハハハッ」


 いた……みんなの言っていた通りだ。

 喋り方、ものすんごく腹立つ~~! よくもパレードを中止にさせようとしたなぁ――!

 そう思っている間にアルトが指から音符を出す。でも、ヒョイヒョイ交わされてしまった。

 そうだ、考えていても全く意味が無い。私達ファイト―ンが戦わないと行けないんだ!ブレスレットから出て来たタンバリンを鳴らす。


「ヘヘッ、それで倒せるとでも?」

「よし、行くんだ」


 行くんだ?

 邪楽が命令したその次の瞬間、影が出て来た。

 波を描いたような髪の毛に、少し茶色い肌。人間みたいだけど邪楽と一緒にいる。と言うことは…邪楽!?


「なるほど。格上シニアが倒されないように下っ端を…」

「まちゃか二匹目もいたなんて、でつ………っ」

「実は二匹…なんて、どうして――!?」


 私は叫びそうになったけれど、小さめの声でつぶやいた。

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