第十一話 ブレスレットから…!?

 邪楽を見つけたときの光の色とは違う。エメラルド色がきれいに輝いていた。

 他の人に目をつけられると大変だから、パレードを見る場所から数十メートル離れてしゃがみこむ。

 班の子は、パレードを見ていて気づかない。

 うう~マーチング! 早く、ブレスレットの光をどうにかして戻ろう! と思ったその時。


――ポワ――ッ


 軽やかな効果音がして、光がどんどん消えていく。

 そして出てきたのは………………一匹の犬だった。宙に浮いていて、現実ではないみたい。

 えっ、えっ、ええっ!?

 ファイト―ンと言うこと自体が不思議な体験だけど、浮いている犬が出て来るなんてだっ。


 「ミュー・レッジェローでつ。ミューと呼んでくだちゃい。よろしくお願いちまつ」


 生まれたばかりみたい! 上手く言葉を言えていなくて、可愛い!  くりくりとした目、垂れ下がった茶色い耳。見た目も可愛くて、人形みたい。ミューちゃんと言う名前も可愛い!

 でも、そんなことを考えている余裕なんて無い!


「ナギしゃとアルトしゃっに、集まってほしいと伝えればいいでつか?」

「えっ、あっ……。うんっ……? えっ…?」

――ピュンッ


 ミューちゃんが私のブレスレットに飛び込むと…ミューちゃんはいなくなる。

 ブレスレットの中に……入った? え、何? でも、ブレスレットの方にダイブしたよね? えっ…?このブレスレットを作った人、今すぐにこの仕組みを説明して―――!

 しかも、ナギとアルトの名前を読んでたよね? えっ…えっ………?

 何すれば良い分からず立ちつくしていると、ミューちゃんがブレスレットから出て来た。


「あそこの時計ちゃいに、集合するのでつっ!」

「時計台? そこ?」


 私が指差した所を見て、ミューちゃんはうなずいた。

 そしてミューちゃんはフワフワと宙に浮いて移動した。空中を移動しているっ!?


「ミューはファイチョ―ンの三人しか見えないのでつ!」


 ミュージックパートナーは見られても大丈夫なんだ。歩翔君の説明不足だ!あとできっちり怒ろう。怒れる機会も少ないし……エヘヘッ。


「わ…お………………んちゃっ」

「ナギ~! やっと来たよ!」

「無視するな、俺を」


 私がナギに手を振ると、アルトの冷たい視線を感じた。

 あ、アハハ………見えなかったんだよね。ナギが眩しすぎて、アルトがかすんでただけだよ。


「こっちは班からこっそり抜けてきたんだ…というか、この喋る人形はどうしたんだ…」

「こんにちは、はじめましちぇ。ミュー・レッジェローでつ。三人をサポートするミュージックパートナーでつ。よろしくでつ!」


 ミューちゃんが瞳を輝かせて、挨拶をする。可愛い……と思ったけれど、二人は驚いて固まってしまった。ミュージックパートナーなんて聞いた事ないみたい。


「待て…普通に動いてる………。チャックも何もないっ。どういうことだ…!」


 怖い顔をして歩翔君が悩み始めて、ミューちゃんがプルプル震え始めた。

 涙を一生懸命たらさないようにしている。あ――アルトが怖いからっ、どうしよっ。そう思った時、ナギがしゃがみ込んだ。


「ミューちゃん初めまして五線梛です。ナギと言ってね。ミューちゃん、と呼んでいいかな?」

「も゙…もちろんでつっ」


 ミューちゃんが涙をぬぐう。良かった、梛ナイス!


「二人とも本題に入るよっ」

「「本題!?」」

「そうでつ。パレードの楽器が無くなってちまったんでつ。それが…」

格上シニアの邪楽がやったと考えたんだな?」

「そう、そう! 私、すごくない?」


 アルトが銅像見たいに真顔で喋り続ける。無視された、ひどすぎる。例えるなら奈良の大仏の貧乏バージョン? うん、それが似合ってる。


「こちらが園まいマップでつ」


 園内を園まいと言い間違えながらミューちゃんが両手を前にかざす。

 すると、園内マップが出て来た。すごい! ミューちゃんって役に立つ!


「ミューは情報を三人にきょーゆーする、ナビ、そしてえんちょう中の指揮の役目があるでつ!」


 ミューちゃんはたくさんの能力を兼ね備えている。本当にナビみたいな存在だなぁ。


「園内に楽器をしまっている所は無さそうだ」


 そうなのか……。邪楽に会える可能性はぐんと低くなった。

 でも……マーチングが見たい!早く見つけなくちゃ!私は両手に力をこめる。

 手が赤くなってしまったけれど、邪楽がいる場所を探さないと!


「他に………………」


 遊園地にわざわざ邪楽がいる。それなら理由があるんじゃない?


「遊園地、日常とどう違う?」

「えっ……楽しい、雰囲気…みたいなこと?」

「うん、そう」


 私が聞くと、梛が答えてくれた。でも邪楽がいる理由にはならなさそうだ。


「食べ物が売ってるな。おやつとか、な」

「大人がいる? 係員さんがいっぱいいたよね…」

「全てのものが高いでつっ。飲み物だけじぇ五百円でつ」

「カラフルだよね」

「音楽がおおきいおちょで鳴ってるでつ」


 二人と一匹が良く考えて答えてくれている。……でも、どれもしっくり来ないんだよなぁっ。


 「邪楽の格上シニアは何するんだっけ?」

 「はぁ、そんなことも忘れたのか? 格上シニアは楽器を消し、音楽への楽しみを消すんだ。ファイト―ンとして、これぐらい覚えておけ!」


 怒られちゃったよ………。悪魔の声に頭に響いて来る。これからはミューちゃんに聞こう、ミューちゃんの方が可愛いもん。

 ナギはすっごく考え込んでいる。私も考えよう。遊園地は私の天敵であるフルーツが売ってある。

 あ、でも邪楽には関係が無い。アトラクションがあって、イベントがあって、人が多い!

 ……人が多い?

 邪楽はこの世界から音楽を消すのが目的だったはず。それなら人数が多い所で、効率的だ。


「そうか、パレードだ」


 突然歩翔君がニヤリと笑った。起こっても怖い、笑っても怖い、顔が無い方が良いかも。


「パレードで人が集まる。そこに邪楽が来れば、一斉に音楽への楽しみが消える!」

「なるほど」


 ナギがいつもより大きい声で言った。


 「じゃあ、この中にいる?」


 視線を送った先にはパレードを楽しむ、人、人、人! 千人は超えていそうな人数だ。

 この中から探すのが大変!?


――ゾロゾロッ


 そのとたん、たくさんの人がパレード会場から遠ざかって行く。

 えっ、えっ!? まさかマーチングが来ないから嫌になっちゃった?

 マーチングが好きなんだ!

 これはアニメ『アオダヌキ』に出てくるガキ大将が言う『心の友』!

 でも、二人の男性の声で違うと分かった。


「こんなん見る必要無い」「アトラクション乗ろうか」「音楽なんて……」


 これは邪楽のせいなんだ! 邪楽は人に触れることで音楽への楽しみを消す。この近くにいるはずなんだ! 私は目を細くして人の群れを見つめた。

 もっともっと人がいなくなる。更には係員さんまでいなくなってしまった。

 邪楽はこの人数を一人でやっているの? これは難しい気がする。

 そしてもう、最後の二人になった。ドレスを着た女性とタキシードを着た男性。あの二人はこの場を動こうとしない。じゃあ、邪楽はどこに……。


 「あの二人、邪楽でつ! にゃっとうを凍らせた匂いがするでつ!」


 納豆を凍らせた……。本当にやったらどんな匂いなんだろう。


 「邪楽なら行くぞ!」


 あっ、そうでした。アルトに睨まれて、すぐ走る。

 私が駆け寄ると、邪楽はこっちを向いた。

 邪楽は逃げようとせず真っすぐ私達を見つめてくる。

 この邪楽は何から生まれたんだろう。


「あら~来たのね」

「まあ俺らのことを倒せる訳無いだろうなぁ~」

「は!?」


 邪楽の二人がニヤッと笑った。

 それと同時にアルトが怒る。うん、邪楽に挑発されてる。


「フィガロの結婚?」

「何、その曲」


 アルトが呟いた言葉は私の知らない曲名だった。何ソレ?


「知らないのか。モーツァルトの名曲だ」

「ふ――ん、あ、モーツァルトなら知ってるよ! あの赤い顔して怒ってる人でしょ」

「それはベートーヴェンだよ。ワオンちゃん」


 あれ? そうだっけ?

 まあ、でも覚える能力ちからは私に無いからしょうがない!


「もたもたせずに行くぞ」

「ミューが指揮するでつ」


 ミューちゃんがきれいに手を上げる。

 うん、これで終わり…じゃなーい! 待って、待って! アルトが当てて、私は吹くだけ!? ファイト―ンってそんなに簡単だっけ? 

 と思っているとmusicdictionaryをアルトが開き、その上に指を置かされた。


 「「「フィガロの結婚」」」


 musicdictionaryに指を置き叫んだ。


 出て来たトランペットをパシッとつかむ。 ミューちゃんとの初めての演奏、頑張ろう!


 ミューちゃんの指揮に合わせて息を吹き込む。

 優雅でゆったりできそうな音楽が流れる。

 さっきは簡単と言ったけど…やっぱり楽しい! 一番最初より早く邪楽の曲名を当てられたから気分が最高!

 そう思って邪楽を見たけれど、全く邪楽は焦っていない。

 演奏が終わり私はトランペットを口から外した。

 成功した、そう思ったのに……。

 

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