第13話 悪夢

 程なく販売店の棚から次々とガンプラが消えた。


 新しいも古いもない。作品の別も関係ない。

 新発売の商品は勿論、再入荷のプラモも一瞬で消える。

 バンダイのオンラインショップの入札もまさに「瞬殺」で、ガンプラは入手困難な品物の代名詞になり、売り場には「ガンプラ」のタイトルパネルはあるものの、置かれたいるのはガールガン・レディと86と境界戦機のものばかり、という状態になった。

 厳密に言えば、ガンプラは消えたのではない。

 あるにはあったのだ。メルカリに。Yahooマーケットに。PayPayフリマに。三倍や四倍、時にはそれ以上の値札を貼られて。


 そしてそういう状況を知った我々純粋なファンも模型売り場で見かけたプラモに対し「迷ったら買う」をとせざるを得なくなった。少し珍しい、作りたいプラモを見かけたら先送りにできない。あったその時に買わなければ次がないかもしれない。それがまた、市場からガンプラを消す淘汰圧とうたあつ拍車はくしゃを掛けた。


 1980年代初頭。第一次ガンプラブーム。

 1/144ガンダム発売を皮切りに起こった熱狂的ガンプラフィーバーの折にも売り場に長蛇の列が出来たり、売り場に殺到したガンプラを求める人々が将棋倒しになって怪我人が出るなどの騒動があったりはした。

 だがそれは、少なくともオレが知る限りでは、ガンプラが好きな人たちによる熱量が起こした正にフィーバーだった。(一部模型店が売れないプラモとガンプラとを勝手に抱き合わせてセット販売していたという噂を聞いたこともあるにはあるが)

 

 だが、これはなんだ?

 以前なら、ふらっと立ち寄った模型売り場でザクでもドムでも手に取って好きな時に作ることができた。

 しかし今は。ガンプラ売り場にガンプラはなく、あってもSDや偏った作品のなんらかのガンダムだけ。新発売のプラモは並んだ人だけで売り切れて、今だに実物のパッケージさえみたことのないガンプラもザラだ。(G30とか)

 しかも悔しいのは、この原因がかつてそうだったように同好の士たるガンプラファンの熱狂のせいではなく、ガンプラを投機対象として──金儲けの道具としか見てない奴らのせいだということだ。


 やり場のない悲しみと怒り。のなさ。迷ったら買うという買い方は裏を返せば、時期的にすぐに作れないようなコンディションでも買って置いておかざるを得なくなる、ということである。

 かくてオレも、断腸の思いではあるが、複数のスリーピング・ビューティーを抱えざるを得なくなったのである。


 でも今回はそれが幸いした。


 全くそんな予定はなかったが爆上がりしたモチベーションを思うさまぶつける相手プラモが、オレの部屋で出番を待っているのだから。


 今!作りたい!と思った時に手元にプラモがある。

 もしかするとそれはオレたちモデラーにとっては究極の福祉なのかもしれない。


 さて──そんなスリーピング・ビューティーの中から記念すべきジャッカルプラモデル部宝田マサハル作例第一号を選定しよう。


 オレのゼロ式模型作成術が最大限に活きるモチーフ。

 PMOの岩田さん──ズブの模型素人──が見ても「お! なんかすごいじゃん」と思える完成形。

 そして、オレの模型への「恋」が最も色濃く表現できるキャラクター。


 それはお前だ!

 30MM バスキーロット(グレー)!!!


*** つづく ***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

模型戦士マサハル 木船田ヒロマル @hiromaru712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ