第10話 Take it easy

『宝田さん、これもらったやつを画面共有していいですか?』

「はい、どうぞ」


 咄嗟とっさにオレはカメラをオンにしてweb会議参加者に顔が見えるようにした。生産者責任として顔出しするのは常識だと道の駅の野菜が教えてくれている。


 ババーン


 紛れもなくオレの描いたタカラダ文書。

 ううっ、取り込んだ画像で改めて見ると絵の線もガビガビで字も汚いぜ!


『宝田さんが、この通り三つ提案してくれてるんですが、順番に行きますね』


 おっ、これは少佐がこのままタカラダ文書を説明して行く流れだな?

 一応、宝田さんから説明お願いしますと言われた時の為に9分間でプレゼンできるように、ゆうべ家で練習はして来たが杞憂きゆうに終わったようだぜ!


『まず、チーム名と部隊章が欲しい! これいいですよねぇ! みんなでそろえて作品に付けられるし、ジャッカルファング隊とか、上手く行けば本家に逆輸入して登場させて貰えないかなぁ!』

 良かった。

 「こちら側のノリ」が分かる人だ。

 本家? まさか──ガンダムのアニメ本編のことか?

『それにジャジャカルくんの絡み《から》でロゴは使えないけど、ジャッカルファングとかのオリジナルマークなら多分普通に使えますし』

 まあジャッカルなんて一般名詞の一般象形だしな。しかしまさかそんな利点が生じるとは。

『続いて、月イチくらいでテーマを決めて作品合わせをしたい』

 大事だぞ。通ってくれ。できる人だけでいいんだ。プラモを作らないプラモ部なんぞ石のタヌキだ。

『これねぇ、部長の神原さんとも話したんですが、そうだよねぇ、作らないとねぇと。こういう視点がすっぽり抜けていました。やりましょう。参加は自由、クオリティは不問とするってのも、それぞれのスキルも違いますし、仕事のコンディションも時期によって変動しますんで、これはこのままルールでいいでしょう』

 よっしゃあっ!!!

 冷や汗かくぜ。風呂上がりならスーッとして丁度いいかも知れねーが。

 これでオレたちは堂々とプラモデル部を名乗る資格に思い切り手を伸ばした状態になれたわけだ。(まだ作ってないのでギリギリ名乗れない)

『ここに書いてある、作ってないスクラッチビルドより作った素組み!って言葉がいいですよね……そうですよね。手を動かしましょう』

 サー・イエッ・サー!

 小説界隈で言われる「頭の中の大作より書いた短編」って警句の焼き直しだからあんまりめられるとはじいるしかないが、どうやらオレの言わんとする所は伝わったみたいで安心したぜ!

『で、最後ですね。めの推奨すいしょう

 我々、社会人になりますと人からめられる機会なんでグッと減って、滅多にめられたりしなくなりますもんね……。これは忘れないように心掛けましょう。皆さん、いいですね。趣味の集まりですし、作って、お互いにめ合う。我々はそういう部活で行きます』

 い、いいのか?

 タカラダ文書そのまま丸呑まるのみだぞ!?

 おかしい。話がうますぎる。なんだ? これは何かの罠……何か問題が起きたらこのラクガキみたいな紙を根拠こんきょにオレをスケープゴートとして切り捨てる……?

『宝田さんもそれでよろしいですね?』

勿論もちろんです」


 くっ。上手く屋根に上げられて梯子はしごを外され堀を掘られて水を張られたような心地だが、こうなりゃ後には退けねえ。出口はもう前にしかねえようだぜ。


「あ、一ついいですか」

『どうぞ』

芦高あしだか店宝田です。一通りご紹介頂いた通りで間違いないのですが、チーム名と部隊章、今ご覧頂いてるものは一例というかイメージと言うか……仮仮の仮なので。部隊マークも手描きなんですが、PC環境がないんで私では現状がマックスのクオリティです。皆さんの中に絶対こういうの好きで私よりスキルある方いると思うので、別案か原案のクリンナップか……これは叩き台と思って頂いて皆さんのアイデアやデザインも見たいです」

『ですね。ではプラモデル部のチーム名と部隊章、広く募集しますので、絵心のある方、是非どんどんプラモ部のフォルダにお願いします』


 ……ふう。


 つかんだぞ模型の女神の前髪。

 あとはオレたちがどれだけ「作れるか」だ。


『で、早速ですが、まずはみんな作れる人でなんか一個作りましょうよ。今月分。最初はテーマは設けません。自由で。素組みでも食玩でも、なんでもいいしクオリティも不問です。楽しく作ってめあいましょう。作ってないスクラッチビルドより作った素組み。ほんとそうですよね。この精神で気楽にというか、楽しんで行きましょう』


 待ってました!

 オレのゼロ式模型作成術がスマブラ中の振動パッドのように小刻みにだが力強く震えているぜ。いよいよその威力を発揮できる武者震むしゃぶるいでな!!!

 さあて! 記念すべきプラモ部活動第一個目のプラモはなんにしてやろうかな……。


『あ、折角せっかくなんで、皆さんにご紹介したい方がいます』

『え、私はいいですよ』

『いえ、折角せっかくご同席して頂いてますし、いい機会ですから』


 ん? なんだ? 

 画面の向こうで何かめてる……?


『皆さん、ご紹介します。今回プラモデル部の活動を承認してくださり、その実現に大きくお力添え頂いた、PMOの岩田さんです』


 PM……O……?



*** つづく ***

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