第6話 タカラダ文書 第一項

 プラモデル部でやりたいこと──


 その夜オレは自室のデスクに真っ白なA4を置き、鼻の下にペンを挟んで腕組みして考えこんでいた。


 やりたいことは山ほどある。

 我々全員を部隊と設定しての二次創作とかやりたいし(一次創作か?)、メンバーと直接あって食事会か飲み会とかもやりたい。今後の活動予定で例に挙げられていたお子様たちへの模型教室やメーカーさんとのコラボなんてのも──もっともこれは我々がやりたいと言ってできるたぐいのものではないが──やりたくないわけがあろうか。


 だが、今求められているのはそんな個人の、妄想半分の取り留めのないお気持ち表明ではないはずだ。



 そこに絞って三つ考えよう。


 まずは「部隊章」だ。


 これは絶対に欲しい。

 そしてそれを工具箱や作ったガンプラ、ゾイド、30MM(注2)に貼りたい。

 「ジャッカル プラモデル部」ではなく、独自の厨二っぽい部隊名──そう、例えばデザートラビッツとかホワイトディンゴとか闇夜のフェンリルとかそういう小洒落こじゃれた名前が必須だ。

 なぜ必須かって? 自明に必須だからだ。


 我々は部活としては特殊な活動形態だ。

 今のところ全てがリモートで、直接顔を合わせる機会もなく、ミーティングの出席者も恐らくその都度つどバラバラだ。これは参加負担が軽い代わりに「参加している、活動に貢献こうけんしている意識が薄くなる」という弊害へいがいを持つ。


 我々のような無償の有志による活動が長く継続するためには、我々のモチベーションを保ちつつ、メンバーとしての帰属意識を維持し、そこに精神的な高揚──誇りプライド──を持てるようにするのが近道だ。


 そしてそれは古来から『我々の名前』と『旗印』が有効だと歴史が証明している。


 そう! 継続!

 こういった活動には継続を意識した様々な仕掛けが施されるべきなのだ。さもなくばやっているのかやってないのか分からないような状態になり、有名無実となり、自然消滅してしまう。そんな本社の施策を掃いて捨てるほど見て来た。


 オレが考える、その為に必要な条件は次の五つだ。


 ・モチベーションの維持

 ・シンプルで力強いルールの策定

 ・モチベーションの維持

 ・モチベーションの維持

 ・モチベーションの維持


 部隊の名前とそのシンボルは、離れ離れの我々を一つだと認識させてくれる。

 疲れて帰ってラップのご飯をチンしてる俺も、ジャッカルファング隊(仮)の一員なんだと背筋を伸ばして積みプラに向き合える──。


 オリジナルの部隊名と部隊章は絶対に必要だ。


 我々が我々であるために!

 ジーク・ジャッカルファング(仮)!!


 まずはステッカーとか作って工具箱とかに貼りたいし、1/144、1/100、1/72スケールの模型に貼れるデカールとか欲しい。個々人がバラバラに作った模型も、完成してそれを貼れば同じ部隊の僚機になれる。プレゼン資料や企画のマニュアルなんかの表紙の真ん中にはそのマークが付いていて欲しいし、例えばゆくゆく全てが想像以上に上手く行って、我々の公式グッズなんかを作る運びになったとしてもオフィシャルの部隊マークがあればメチャクチャ話が早い。ステッカー、缶バッジ、クリアファイルにメモ帳、アクスタ、マグカップ、Tシャツにキャップ、キーホルダー、クッキー、万年カレンダー……これでキミもジャッカルファング(仮)隊員だ!


 うーん、プレゼンするに当たり実例を示したいが、エクセルの行に入力じゃ部隊マークが示せない。

 ……えーい面倒だ、このA4にオレの想いを描き殴ってそのままPDFにして送りつけてやれ!

 確か本社に送る文書はMEIRYOフォントのサイズ10みたいな統一ルールがあった気もするが、そんなフォントでこのほとばしる熱いパトスは表現できないんだよ!!

10代の頃ほどキラキラしちゃいねーがな!思い出を裏切るほどオレは腐っちゃいねーんだ!!!


 ジャッカルファング

(盾縁取りに横向きのジャッカルのシルエット。牙を強調。航空部隊の部隊章がモデル)

(これくらいならパソコンのプリンタで1/144サイズに印刷してもギリ認識できる)

(グッズ化した時やや味気ない)


 課外工作部隊第七班「アンラッキーセブン」

(菱形に逆さまの「福」の字)

(中国の同デザインの縁起担えんぎかつぎの張り紙に由来:確か福が来ると倒れた福かなんかが同じ発音とかだったはず)

(出会った敵に不幸を運ぶ逆さまの福、アンラッキーセブンってのは何かのネタに使おうと15年くらい温めてたアイデア)

(カリカリのSF兵器に漢字が書いてあると興奮する持病のオレはこれを推したいが、グッズ化した時に中華街のお土産みたいになってしまうという懸念けねんがある)


JPC m.o.d force17

(丸に模式化したニッパーと稲妻)

(特殊部隊のワッペン風に縁取りに沿って「JPC」「m.o.d force17」のレタード)

(ジャッカル・プラスチックモデル・クラブ 模型部隊17の意)

(17は初期メンバーの人数に由来)

(グッズ化を考えるとこれくらいの情報量が一番映える気がするが、パソコン出力だと1/144スケールにした時に文字とか潰れる気がする)


 ……まあこんなもんか。

 相手は模型にジットリ湿った感情を持つ同好の志だ。オレの言わんとする所は伝わるだろう。


 えーと、A4にシャーペンで1cm幅の補助線を描いて……へへっ。入選8万円の賞金目当てに2年連続で合計12通も応募していたバンダイガシャポンアイデアコンテストのアイデアシート作成の経験が、まさかこんな場面で活きるとはな。


①チーム名と部隊章が欲しい


 近くは寄って目にも見よ!

 遠からんものは音にも聞け!

 (本当に音で聞く場合は近親者もしくは同居人に読み上げてもらってください)


 ばんっ、とぶっとくサインペンで描いたこれが、オレの最初の希望だぜ!


*** つづく ***




注2 30MM【サーティ・ミニッツ・ミッションズ】

バンダイホビー事業部が展開するオリジナルのSFロボットとそのオプション、ディテールアップパーツ等を含む一連のプラモデルシリーズ。

「手頃な価格」「30分で組み立て可能」「量産機が主役」「共通ジョイントにより簡単カスタマイズ、オリジナル機体への改造が可能」を特徴とする新興レーベル。

 クオリティに目をつぶりマジで大急ぎで作った場合は多くのキットが30分で組み立て可能である。(企業敬称略)

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