第5話 導かれし者たち

『では、時間になりましたので始めます』


 芦高店の事務所の片隅でノートパソコンを一台借りて、オレはweb会議でプラモデル部キックオフミーティングに参加していた。

 パソコンの右側にはルーズリーフとペン、左側にはケースに収まったシャアザクがある。準備は万端ばんたんだ。


 こちらのカメラはOFFで、画面には店舗ナンバーである203が表示されているだけだが、オレは背筋を伸ばして制服の襟を正した。

 休日じゃないのかって?

 休日とはいえ会社の人たちと関わる正式な場だ。ドレスコードに指定はないが、万一顔出しを求められても制服なら間違いがない。


『初めまして、部員の皆さん。今回、ジャッカルプラモデル部の部長を務めさせて頂きます本社MD部の神原です』


 画面には仕事できそうな眼鏡の男性が映っている。なるほど。この人が我々のボスってことか。心の中で「大佐」と呼ばせてもらおう。


『とりあえず簡単に、今回プラモデル部発足に至った経緯からご説明したいと思います──』


 かいつまんで内容を要約すると、元々本社内の有志が店頭サンプルなどを作る活動をしており、時勢的にホビー等含めたヤングアダルト層向けの商品群に力を入れたい社内トレンドと相まって、この際だからメンバー募って公に社内部活を立ち上げてみよう、という話になったと。

 ふむふむ。


『社内プロジェクトとしてこう言った形の活動は初の試みで、何もかも手探りであり、先々どうなるかは分かりませんが、前提として仕事ではないので、楽しんで参加して頂けたらな、と思います』

 任せてください大佐。三流私大出で膝に爆弾を抱えてはいますが、模型を楽しむことに掛けては偏差値50は超えている自信があります。

『色々上手く行けばゆくゆくは、メーカーさんとコラボして模型教室とかのイベントをやったり、模型系YouTuberの方とコラボできたり……したらいいなぁとは思ってはいますが、何分どうなることやら』

 あははと神原さんは笑った。

 夢がある話じゃねえか。

 けど本当に本当に上手く行ったらそれじゃすまさねえ。どうせなら業界にジャッカルプラモ部ありとその雷名を轟かせ、メディアを賑わし、オリジナルグッズを制作販売して、アニメ化を経て実写ドラマ化、劇場映画化……ハリウッド映画にもなってアカデミーなんたら賞を総なめよ。

 畳むこと考えて風呂敷拡げるような真似はよそうぜ。オレはこの部活にはそれくらいのポテンシャルがあるとマジで信じるぜ。

 もっとも、それを今は胸の内に秘めとく分別を持つくらいには無難に年老いてしまったがな。

『当座の活動としては、サンプル依頼があれば分担して作る──くらいしか今の所は決まっていません。あと、ジャッカルプラモデル部の公式ロゴは作る予定です。SNSの方も一応Xに公式アカウントは作成しました。他にも皆さんからこういったことがやりたい、というのを募集しますので、意見のある方はJドライブのガンプラ部フォルダ、やりたいこと募集ファイルに次のミーティングまでに記入してください』

 ややや、やりたいこと募集ファイル!?

 入力形式はなんだ!?

 図や写真は貼れるのか!?

 一人いくつまで書けるんだ!?

 どれくらいマニアックなことまで「やりたい」と言っていいんだ!?

 ……いや待て。

 落ち着け俺の模型魂。

 今はまだ雄伏の刻。

 部活はメンバー全員のものだ。


 オレだけが暴走機関車のようになると皆も辟易するだろう。

 後で厳選に厳選を重ね、絞りに絞って三つとかだけ書こう。


『それじゃ、簡単に名簿順に自己紹介を──』


 流石に参加者全員分の自己紹介は省略するが、オレにはどいつもこいつもバカがつくほどの模型好きガンプラ好きに感じられた。何せみんな話が長い。それはそれぞれが抱えた模型へのガンダムへの感情の重さのバロメーターだ。流石は有志募集の上、更に選抜されたセレクテッドたち。抱えた拗らせもメガトンクラスのヤツばかりみてーだな。


 いいだろう。

 あらゆる重要なパスワードをMSの名前とその型式番号にしているこのオレが、本当に拗らせるとはどういうことか思い知らせてやるぜ!!!


*** つづく ***

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