第4話 K-day
その日は朝から薄曇りだった。
フ……天までもが新たな時代の幕開けに
天よ。恐るるなかれ。
何があろうとこのオレが、楽しくかつ現実的に推進するだろう感じに上手く丸く納めて、決してこの千載一遇のチャンスを有名無実になんかさせないぜ!!
いつもより早く起きたオレは、念入りに顔を洗ってヒゲをそる。
今日はこれから共に活動するオリジナル17との最初の会合だ。これは武将でいえば初陣の合戦を意味する。メンバーが想像以上の
これから床屋に行って、帰りに百均に寄るぜ!!!
***
百円均一はいつだってモデラーの味方だ。
筆、塗料、下敷きという名のプラ板、ジップロックのビニールに各種収納ケースや展示ケース、ジオラマに使えそうな数々のミニチュア素材──。それらがほぼ全て110円で手に入る。一つ難点を上げれば、百均各社さんで品揃えが違って、なんなら百均のハシゴをするなんてことが度々必要になる点くらいだ。
全ての百均が一つになったギガンティック百均みたいな店があったなら──そんな店舗形態は百均さん側からしたらデメリットしかないが──そんな夢想をしたことも一度や二度じゃない。
今日、ここに来たのは「MSキャリー」を作る為だ。
そう。今日の戦場に随伴するMS《モビルスーツ》を輸送最高の状態で輸送する為に。
***
「ありがとう↓ございました〜↑」
店を出たオレの手には、工具箱のような半透明の取手付き樹脂ケースと、マイクロファイバーのモップの替え先が握られていた。
今日のミーティングに自作のガンプラを持参するケースにする為だ。
ガンプラは弱い。
オラついた見た目とは裏腹に思春期少女の容姿コンプレックスのように傷つきやすく、中年男性の裏付けのないプライドのように壊れやすい。
パーツ自体の破損もさることながら、塗装したものであれば下手に引っ掻きでもしたら即座にそれは消えない跡となって作品の価値を
そこで外殻は軟質樹脂のケース、ガンプラはマイクロファイバーのモップ先に来るんでそれに納める。長年ガンプラと関わって来たオレのこれが最も簡便で最も実用的なガンプラ輸送ノウハウだ。
だがもし──
もし万一部長副部長から「ちなみにガンプラ手元にある方いますか?」なんて振られたら……。
ガンプラ部オリジナル17の一員として「ありません」なんて口が裂けても言えねえ。
果たし合いの場に刀刺さずに
例え
家に帰ったオレは三段ボックスを改造したディスプレイケースからMG 1/100 シャア専用ザク(ver2.0)を慎重に取り出した。
以前娘が誕生日プレゼントにくれたものだ。
シャア専用ザク──。
一定以上の世代ならガンダムに詳しくない人でも一度くらいは名前を聞いたことのあるだろう、モビルスーツというキャラクター群の中の偉大なアイコンの一つだ。
少し詳しい人なら「通常のザクの3倍のスピード」のフレーズと共に記憶しているかもしれない。
普通の乗用車が時速80kmで走っている道路を赤い乗用車は240kmで走りますみたいなイカれた設定だが、実は長いガンダムの歴史の中でその設定も繰り返し掘り下げられている。
かつてオレの父親は幼いオレに「敵の戦艦に近づく時、普通のパイロットは迎撃を避けるためにフェイントを入れたり、大きく回避運動をしたり、進行方向を偽るために迂回したりしてようやく自分の射程距離まで近づく。多分だが、シャアは迎撃をギリギリで避ける技量があり、ほぼ最短距離の一直線で敵の懐に飛び込む。それなら機体の性能が大して変わらなくても接近に掛かる時間は大幅に短くなる……ということじゃないか」と語った。オレは
OVA作品「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」の特典映像として収録されたガンダム雑学コーナーの短編「宇宙世紀余話」では「シャアは戦闘中に敵機やその残骸、小惑星などをMSで蹴るテクニックで、他の追随を許さない初速を得ていた」と説明された。
そしてこの1/100 MGシャア専用ザク(Ver 2.0)では、大型化された背面のメインバーニア、脚部等に増設された複数の補助スラスターノズルなどの造形によって、こいつが並のマシンではなく、エースパイロット用に特別にチューンされたカスタム機であることを無言の内に知らしめている。
HGブグじゃないのかって?
確かにアイツはオレの運命のMSだ。
だがあれは1/144HG。実寸は12cmそこそこ。写真を撮る時は巨大感が出るように様々に工夫ができるが、肉眼やwebカメラで見た時はとても小さい。
今回はweb会議。1/100スケールMGなら実寸20cm近くあって低い解像度の画像でも判別がし易いし、加えて誰でも知ってるシャア専用ザクならばそこから話題も転がるかも知れねえ。
頼むぜ赤い水星。
うだつの上がらねー三流大学出に、今日の数時間だけ力を貸してくれ!
小心者のこのオレに選ばれし16人と堂々と渡り合う勇気をくれ!!!
*** つづく ***
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