第2話 運命のMS

※この物語はフィクションであり、実在の団体、企業、人物とは一切関係ないぜ!!!

※読書時のテンポを重視し、固有名詞や技術ターム等の解説は最低限にするぜ!!!詳しく知りたい人は適宜ググッてくれよな!!!

※この物語はフィクションだが、諸事情によりある日突然一切合切消えるかもしれないぜ。その時は詮索せずに色々察してくれよな!!!


***


 退勤したオレは着替えを済ませ、事務所の椅子で腕組みをした。

 書類選考で送る模型の写真……そのモチーフの選定。そのの推定のためだ。


 ざっくり50名くらいが応募して10名くらいが選ばれると仮定して(数字は全くの適当だが)その写真のラインナップはどうなるだろうか。

 その中で印象に残るような目立ち方をしつつ、悪目立ちしない辺りを目指さなくてはならない。

 社員の年齢層や昨今のガンプラの市場の品揃しなぞろえ状況(注1)、書類選考という勝負所であることを考えれば、それはそれぞれが一番気にいっている「なんらかのガンダム」がズラリと並ぶのではないか──だとするならば、オレが提出すべき写真からガンダムは外れる。

 それと、選定するかたのマニアック度合いが見えないことにも注意が必要だ。

 数々の地方店舗をさすらうように勤務して来たオレは本社MD部の神原さんがどんなかたか全く知らない。模型写真も志望動機も温度感を間違えば向こうからしたら引くほどこじらせた厄介なオタク……と映るかもしれん。

 武装モリモリのカスタム機もオリジナル設定のビルド系機体も爆発背景の派手な特撮フォトもオレの写真フォルダにはあるが──


「決めた」


 模型アルバムの一枚の写真でオレの指が止まった。


1/144 HG MS-04 ブグ(量産機カラー) だ。


 おっと、機体の名前はよくあるザクやグフの創作用のぼやかしや匂わせじゃないぜ。

 ブグはザクに先んじて作られた最初機のMSで「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」でランバ・ラルの搭乗機としてその活躍が鮮やかに……っと賢明な読者諸氏にはこんな話は釈迦しゃかに説法かな。

 そしてその賢明な読者諸氏なら、ブグが量産なんかされてないってことをいぶかしんでるかも知れねーな。


 劇中のブグは、簡単に言えばザクのご先祖様の試作MSで、「蒼い巨星」の異名をもつエースパイロットのパーソナルカラーであるブルーに塗られた機体だ。


 じゃあ、こいつがもし量産されていたら──。


 ザク直系の実戦評価機であるブグを、ジオンMSの象徴でもあるザクカラーに塗ったら絶対似合うはず。そんな思いで真っ青なキットを下地塗装から全塗装で塗り直し、両肩アーマーのなんのためか分からん気持ち悪いステップだかフックホルダーだかの列はいさぎよく切り落としてつるりと仕上げ、艶消つやけしクリアのトップコートで光沢を抑えた仕上げの、あったかも知れない量産型ブグ。


 こいつはしばらく模型を離れていたオレが、模型の楽しさを思い出し、再び模型に対する情熱を取り戻すきっかけになった思い入れの深いキットでもある。


 選抜する審査員がオレと同じ程度にマニアックなら、「小改造してザクカラーに塗られたブグ」だと見て取り、模型キャリアの長さと相応の技術を感じ取れるだろう。

 逆に審査員がライトユーザーよりだったとしたら、「丁寧に作った変わった武器を持ったザク」くらいに見え、うわマニアックきっも……と思われることもないだろう。


 写真の中では見上げるような構図で、顔を少しだけ横に向けた武装したブグが薄暗がりの中コロニーの壁面に立って佇んでいる。左手奥には、反対を向いて警戒する小さなザクが写っている。


 コロニー壁面はUFOキャッチャーの景品でガトル戦闘爆撃機のSDモデルとセットだったディスプレイベースを汚し塗装したもの。遠景のザクは本当にスケールの小さなザクで、HCMproというかつてバンダイから発売されていた1/200スケールの完成品可動フィギュアだ。(まあ宇宙を思わせる暗がりに溶け込んであまり細部は見えないが)


 MSVのパッケージアート。


 勘のいい模型好きなら上記の説明を読んだだけで、その雰囲気を想起するだろう。

 そう。オレたち世代のガンプラ好きなんて、多かれ少なかれMSVのパッケージアートに脳を焼かれた覚えがあるもんだ。初めて真っ白なガンダムのモナカキットを自分で組んでマジックで塗ってからウン十年。ようやくオレはあの頃憧れたMSVのようなガンプラを作り、そのパッケージアートのような写真を撮れるようになったのだ。


 この一枚の写真は、百万の言葉よりも雄弁にオレの模型人生について語ってくれる。それが相手には全ては聞き取れないかも知れなくても。

 逆にこれを出して落とされるような課外活動なら、むりくり参加した所でストレスの溜まる活動になるってもんよ。


 とはいえ志望動機は必須だ。


 えーと……


 幼稚園の頃にモナカキットのガンダムを組んで以来、模型と共に生き、模型と共に歩んで来ました。模型は思ったより難しくない、模型は楽しいということを、今はまだそれを知らない人たちに伝えたい、その力になりたいです。


 ……こんなもんかな。


 オレは模型が好きだ。

 模型はオレの人生を豊かにしてくれた。

 自分が作ったカッコいい模型を眺めていると誇り高い気持ちになれた。

 マスキング塗装がバチッと決まると積日のストレスが溶けてゆく音がした。

 世の中の理不尽に自暴自棄になりそうな時でも、ランナーからパーツを切り離すパチパチという音を聞いていると気持ちが落ち着いた。

 SNSが全盛になってからは、模型を通じて数々の同好の士と知り合いになれたし、海外のモデラーとの交流すらできた。

 模型という趣味にオレは多大な恩を感じている。

 今度は、オレが模型に恩返しをする番だ。


 家電量販店ジャッカルプラモデル部よ。

 オレにそのチャンスをくれ!

 模型の女神よ!!

 その前髪をオレのタミヤニッパーで切らせてくれ!!!


ター……ン ッッッ(エンターキーを叩く音)



*** つづく ***



注1

2020年のHGバウンド・ドック発売以降、市場からガンプラが枯渇し、繰り返し再販は掛かるものの、それは各種の「ガンダム」であることが多い。その傾向は2024年現在でもあまり状況は変わっておらず、模型売り場に行けばなんらかのガンダムは入手しやすくはなったが、敵勢力量産機や局地戦仕様機、各作品MSV系の機体などは再販が掛からないか、もしくは掛かっても瞬時に消えてなくなるのが現状である。

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