第四話 好感度
「……今度はなんだ?」
弁当を食べながら特に中身ない会話に花を咲かせていると桝井の視線がある方向に注視しているのに気付く。
「……もしかして池嶋さんの手作りですか?」
「弁当のこと? そうだけど」
趣味が料理なので朝早く起きて晩御飯の残り物を詰め込んでいる。手作りという程大層なものではないが、やはり冷凍食品より人の温かみがあって美味しい。
俺の弁当に視線が向いている彼女は食べたいのかと思ったが少し違うようで。
「……手作りの弁当を食べさせるというラブコメイベントができません」
と意味不明なことを呟いている。ちなみにだが桝井の弁当も自分で作っているようだ。俺より美味しそうな出来栄えで得意な料理すら敵わないとは自信喪失の一歩手前である。
「自分の弁当くらい自分で用意するから気にしないでくれ。決して桝井さんの手料理が食べたくないわけじゃないけどね」
「まずは胃袋を掴む、もとい胃袋を握り潰す勢いで好感度を上げる作戦が……、他に何かないでしょうか」
「俺に聞かれてもしらん。あとそういうのは俺に聞くな、他の人に相談しろ」
なぜ俺の好感度を上げる作戦を本人に聞くのだろう。あと好感度を上げるってなに? もしかしてギャルゲーみたいに攻略しようとしてる?
「……あ、名案が思い付きました」
「凄く嫌な予感がするが、一応聞こうじゃないか」
「これから毎日、池嶋さんが私の弁当を作ってください。これで解決します」
なぜ俺が彼女の弁当を作らねばならんのか。別に嫌というわけじゃないけど。
「……理由は?」
「単純に食べたいからです。それ以外にありますか?」
「俺の好感度を上げるという話はどこ行った? それじゃあ逆に桝井さんの好感度が上がるんじゃないか」
「それで構いません。ただでさえ高い池嶋さんに対しての好感度を天元突破して完凸させられれば私にとっては僥倖です。……あ、でもそれでは私の好感度が上がるだけで池嶋さんの好感度は上がりませんね……、むむむ、困りました」
桝井は噂では頭が良いとされていたが、意外とポンコツなのかもしれない。今まで喋ったことがなかったので隙のない完璧な性格かと思っていたが抜けているところもあるそうだ。親近感が湧く。
「……じゃあ俺から提案させて貰って良いか?」
「何か良い案でも思いつきましたか?」
彼女の好感度作戦に乗り気と思われたくはないが、思いついた案は俺にも利があるのですっと挙手をする。
「高校がある日は、互いの弁当を交換するっていうのはどうだ。これなら桝井さんは俺の好感度を上げられるかもしれないし、俺も桝井さんの弁当を食べられる。WINWINな提案だろ?」
「……天才ですか」
大袈裟な。こんなの誰でも思いつく。
「池嶋さんの手料理が食べられる上に好感度も上げられる。……素晴らしいです」
「ただし体調が悪い時は無理して作らないこと。昼食は最悪、学食で食べられるからな」
「そうですね、池嶋さんの言う通りだと思います」
「……でも期待するなよ。俺の料理が桝井さんに敵うわけないんだから、マズかったらすぐに言ってくれよ」
「お弁当を見ている限りはとても美味しそうですけどね」
「見た目だけかもしれないだろ」
「まあ、確かに私の料理は美味しいですが、どちらかというと和食が得意なので洋食が得意な池嶋さんとは比べられないと思います」
俺の弁当を見てそう判断する桝井。ちなみに俺は和洋中、どれも得意だが好きなのがハンバーグやオムライス、ナポリタンと洋に偏っているので食べるものも自然とそれになっている。
どちらにしても彼女の料理スキルには敵わない筈だ――せめて洋食くらいは太刀打ちできると思いたい。
「……では、弁当を交換してみますか?」
「え、今日から?」
「はい。池嶋さんはどうやら料理に対する自己評価が低いようですので。お弁当を交換すれば一目瞭然じゃないですか」
「……俺の弁当がマズかったらどうするんだよ」
「正直言うと私はマズくても構いません。私が求めているのは『池嶋さんの手作り』という点のみです。もちろん味も付随して美味しければ良いですが、手作りを食べられるというだけで私は幸せなのです」
「……まぁ、俺もそうかも」
確かに言われてみれば、俺も桝井の料理に対して特段、味を求めていない。ただ彼女の手料理が食べたいという一心だった。
「どうです? まだお弁当を交換するのが怖いですか?」
俺の心情を察しての発言だったのか。……めちゃくちゃ優しいな。桝井の気遣いにふっと微笑み、俺は首を横に振る。
「桝井さんの言う通りだ。俺も桝井さんの弁当食べたいし、じゃあ交換するか?」
「……はい! 私も池嶋さんの手料理が食べたいです!」
昼休み、俺は互いの弁当を交換し、たわいない雑談に花を咲かせたのだった。ちなみに彼女の弁当はめちゃくちゃ美味しかった。桝井も俺の弁当を美味しいと食べていた。
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