第16話 狂った味覚も美味ならば

ランチス研究所内にて…


「ここは特に目ぼしいものはないわね…」


「うん?」


「どうしたのママ…」


「メーヴルから連絡みたいニャ…」


テトはアイテムボックスから道具を取り出す…


「…妾が外に出る前には無かった道具だな…」


「これは最新鋭の通信用魔道具[マフォン]ニャ。」


テトが魔力を充填してマフォンを起動する。


「メーヴル?聞こえるニャ?」


「テト、こっちは片付いた…」


「そうか…良かったニャ…大罪に関する情報は

それなりといった所だニャ…大罪の力を消す方法

さえ判明すればティエルスフ討伐も近いニャ…」


「奴なら…もういないよ…」


「え!?倒したの!?」


「あれはティエルスフの死体に根付いただけの

寄生虫だったよ…ティエルスフは最後まで誇り高き龍だったよ…」

 

「……」


「弔いは済んだ…後はアンタ達が上がってくれば

遠足は終了だ…帰るまで油断すんじゃないよ?」


「分かってるニャ。」


通話が終了した。


「さて…残りの探索箇所は…教会ぐらいだろう…

レン!そろそろ移動するぞ!」


………静寂に声とくぐもった海の音だけが響く…


「ん?居眠りか?全く…呑気な…」


セドナが扉を開く…その先の光景は先程見た死体の山が積み上がる牢ではなかった。焼かれ崩れた

建造物の残骸が広がる街の広場跡…魔術結界が展開

された空の向こうに暗い海が広がっている…


「これは…一体…!?」


煉の姿も無く、人の気配一つ無い街は灯台の暗い

灯りだけが不気味に揺らいでいる…


「どこニャここ!?入ってきた道は!?」


「落ち着いて、あの魔法陣の形からして…空間を

繋げる迷宮結界よ…かなり荒いけど…」


「この灯りは…焦げ跡の上に設置されている…

少なくとも沈んだ時よりも後に作られた物だろう…全て死んだと思っていたが…まだ生き残りが…?」


─────────── 一方…煉達は…


「全く…皆どーこいったんだよ…人っ子一人居やしないじゃないか…」


「それにしても…どうしてここに入ってきたの? 海の底に沈んでいるのに…」


「お宝探しだよ、なんでも…大罪を解く技術が

存在していた可能性があるっていうからさ…」  


「………そうなのね…大罪って言うけど…そんなに

悪い事をした訳ではないのに、力だけ消そうなんて考える人もまだいるのね…」


「…私は大罪のせいで飢えが続いて苦しいからね、こんなもののせいで苦しいのなら消したいさ…」


「………」


話をしながら通路を進んで行った先には何らかの

貯蔵庫があった。


「…何か食えるもんないかな?」


「えー…?やめておいた方が…ここは随分と埃が

積もっているわよ?」


「んなこと言ったって…お!これは…」


冷気の漂う場所から氷漬けの食べ物が出てきた…


(間違いない…私の食欲センサーも反応している…これは食べる事が出来る!!)


ゆっくりと氷を解凍して食らう…


「ええ!?本当に食べた!?」  


「う〜ん……まだまだ新鮮だ。」


パンを焼いてみると香ばしい匂いが広がり、食欲をそそる。


「わ、私は遠慮しておくわ…」


「腹減ってないの?」


「私もお腹は減るけど…食べなくても生きていけるし、それには流石に抵抗があるわ…」


「そう…」


食い終わり、移動を再開する。その時、街の広場らしき場所に出ると、人影が見えた…


「な、何か来る!」


足音の主は巨体で地面を抉りながらこちらに

向かって来る…暗い灯りに照らされてその姿が

露わになる…


「何だ…皆して…確かに私は迷子になってたけど…そこまで心配だったか?」


「……何だレンじゃないか!驚かしよって!」


「さーせんさーせん…あ、そういや生き残りが

見つかったよ。」


「…え?」


束の間の安心に水を差す一言は皆が警戒を強める…


「初めまして〜マリネア・トロバよ、こんなに

賑やかなのは久しぶりだわ!……あれ?」


横からトコトコと歩いてきた女の名乗りに一同は

驚愕する…特にセドナは反応が大きかった…


「まさか…生きていたとはな…」


「…あら…セドナちゃん…」


マリネアは自分の娘を見つけたが、感動の再開とは思えない表情だ…



「何故…私達と違ってあなたは短命種だろう…

三千年も生きている筈が無い…」


「…確かに…私は短命ですぐに尽きる命…でもね?

また産まれてくればいいのよ…私はね、死んでも

また同じ魂を持って何度でも同じ私として産まれる事が出来るのよ…だから…心配無いわ!」


「自分自身を…産み出したのか?」


「ええ…それにしても、大罪を祓う事が目的だと

聞いたわ…そんなの…やめましょう?」


「何故だ…これは私達を蝕む病魔なんだぞ?」


「やっぱりあなたもそう思うのね…私達の大罪は

病なんかではないわ…己の根底にある欲望の表れ

なのよ…それを抑えるなんて苦しいだけ…私達の

欲は封じられるべきものでは無い筈よ?普通の人間が欲望を閉じ込めても苦しみなど無いでしょう…!同じ大罪人なら分かるでしょ!?」


「私達には…こんな力なんか必要無い!大罪のせいで本当の自分を歪められ続けるなんて御免だ!

母さんだって…そんな力が自分の全てでは無い

だろう!」


「どうして分かってくれないの…?セドナ。

私は…私の生き方に従ったまでよ…ねえ、命ある者の欲は何故あると思う…?愛が欲しいから?

快楽を求めるから?生きる為?全部違うわ…

自分が存在し続ける事を望む本能…ずっと消えずに自分の存在を他者に証明していたいだけなの…

大罪の欲望は…本来の私なのよ!」


「………」


全員が戦闘態勢に入る。


「今の私が歪められた紛い物だと思いたくないの…

永遠に消えたくないの…今の私では無くなるのが

嫌なの…!だから…!」


街中のいたる所から屍が蘇り、湧いてくる…


「大罪を消すなんて言わないでよ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る