第15話 勝利の美酒はほろ苦い

キニアスフは空へと飛び、再び翼から魔術を展開

してメーヴルを狙う。


「通りで…奴の面影が無いと思ったら戦い方も、

魔術も力任せで禄に扱えない臆病者の寄生虫が

憑いてちゃ仕方ないもんだよ…!」


「身の程を知らぬ愚か者め…我は全ての上に立つ

王であるぞ…!人の裁量で高貴にして完全なる我を愚弄するなど…!」


「なにが高貴だ!他人の体で威張り散らす様な奴が完全を名乗るんじゃないよ!その肉体がありながらアタシにも臆する下等生物など…ティエルスフの

足下にも及ばないね!」


メーヴルは空から飛来する魔術を容易く躱し、懐に飛び込む。そして身に付けている装飾の一つを天に

掲げる。


「ヌウオォッ!?こ、これは…鎖か!?」


大地から光の鎖が展開され、メーヴルの指輪の

一つが崩れて塵となる。


「対空魔装、イカロスだよ…!空を飛ぶ程度は対策済みなんだよ!」


「グゥッ…!おのれ…!ガアァァ!?」


キニアスフは大地ごと鎖を引き抜こうと力任せに

鎖に抗う…そこに槍の雨が展開され、翼を貫かれた

キニアスフが地に落ちる…


「魔槍ゲイボルグ…逃げる物を追う槍だが…

ティエルスフなら臆して逃げる事は無い!

体を奪っただけで扱いきれないテメェなんぞに

防ぎきれる訳がないのさ!」


「グゥ…つ、翼が…!おのれェ!!」


怒り心頭のキニアスフは火を吐き…叫びを上げ…

爪で大地を抉る…しかしメーヴルは殆ど傷がなく、

キニアスフは消耗するばかりだ…


「それで全力か!ウチの奴らの方がもっと手強い

位だ…完全を自称するには欠陥が多すぎるんだよ!」


頭上に槍が突き立てられる…


「…最後に聞かせな…お前みたいなに蛆虫ごときが

ティエルスフをどうやって乗っ取った…」


「ククク…ハハハハハ…!」


「何を笑っている…!」


「確かに…我ではこの龍に…手も足も出ん…だが!此奴の命は有限だ!我の様に尽きぬ永遠を持たぬ

劣等など…手を下さずともいずれ消えゆくのだ…!

死に縛られた下等生物は最初から敗北が決定して

いるんだよ!クハハハハ!!」



「もういい…喋るな!」


「そしてこんな風に…内から喰らわれるのだ!」


「うぐッ!?」


ティエルスフの傷口から醜く歪んだ人型の肉塊が

飛び出てメーヴルに喰らいつく…歪んで溶けている頭蓋と体がメーヴルの内側に入り込む…


「油断したな!ギヒャヒャヒャ!貴様らは所詮…

我が世界の歯車の一つに過ぎん…そんな貴様達が…

我と同じ永遠の命と大罪を持つなんて…絶対に!

あってはならんのだ!我は全ての頂点にして全ての中心なのだ!秩序にして法であり!貴様ら劣等は!

全て私の奴隷であれば良いんだよォ!!!

我が一部となって消えるがいい!メーヴルゥ!!」


「く、クソッ…」


(あぁ…こんな…終わり方など…!まだ弔いすら…仇討ちすら出来ていないというのに…!)


力無くメーヴルが地面に倒れ、キニアスフに侵食

されていく…


「すま…ない…皆…私の宿敵…テ…エ…ルス…フ」


メーヴルを温かな光が包む…


(あぁ…私は…消えてしまうのか…?散々…強欲に任せて…奪ってきたんだ…相応の報い…か…

仇ぐらい…取りたかった…な…)


目を閉じるその時…懐かしき龍を見た…かつての

誇り高きな真龍の覇者を…


「ククク…遂に…遂に衰えぬ肉体を我が物に…!?な、何なのだ!?この光は…!?既にこいつの権限は我が手に…なッ!?」


「……グゥガアァァ…!!」


「何だと…!?ティエルスフ…だと…!?貴様…

何故!?確かに貴様は死に…我が一部となった筈!なのに…何故まだその肉体に宿り続けている!?」


[…貴様に…知る権利は無い…]


眩い光がメーヴルを照らす…


「ウギャアァァ!!痛い…!痛い!うぐ…こ、この女ごと消し去るつもりか…!?いいのか…!?

誇り高き貴様に…そんな事が出来るのか!?」


[消えるのは…貴様だけだ…]


光が強まり、キニアスフを焼き尽くす。


「ギイィィ!!あぁ…!い、嫌だ!我は…全て…!

こんな…!下等な俗物なんぞにいぃぃ!!

ウアァァッ…!…………………」


キニアスフが完全に消え去ると同時に、

ティエルスフはゆっくりと大地に崩れる。


「うぅ…ハッ…!?」


目が覚めたメーヴルはティエルスフが腐り始める

光景を目にする…


「な…これは!?」


[…戦友よ…感謝する…我が誇りを…もう一度掴む

事が出来た…ずっと残っていた未練も消え去った…これで…もう悔いは無い…誉れ高き勇敢な戦士と

また出会えたのだから…]


メーヴルは全てを察知した…目を覚ました龍の

曇り無き瞳に宿った光はかつての覇者のものだと…

そして…既に朽ちているその身を削って自分を

救ったとも…


「待て!どうにか助ける手段は…」


[この身は既に朽ちている…無理矢理に…この体にしがみついて来ただけだ…だから…本来の死を

先延ばしにしただけ…死は終わりでは無い…

新たな形へ変わるだけ…そう悲しむ事は無い…]


「あ…」


[また会う時…お主と闘える事を願う…]


「わ、私は…メーヴル…!メーヴル・シルフだ!

その時まで…忘れてくれるなよ…!」


[ああ…メーヴル…また…次の生に…出会える事…を…願う…]


ゆっくりと龍は崩れ、風になって消えた…


───────────


海底遺跡にて…


「よし…必要な物は大抵集まったニャ。皆!次の

部屋ニャ!」


研究資料を集め、先に進む…何も無く、ただ鉄格子だけの殺風景な牢獄の内側には夥しい数の人骨が

集められており…幾つかの骨に残る黒く腐った肉に

虫がたかっている。


「…全く…最悪だ…もう一度ここに来るとは思いもしなかった…死体置き場になっているし…」


「ええ…でも…記憶違いが無ければ…入ってきた

資料室は牢から大分遠い所だったと思うけど…」


「この先には最重要の大罪人…マリネア・トロバが捕らえられていた部屋があった筈…」


扉を開いて中を確かめる…だが、彼女らが知る

部屋があるべき場所には薬瓶が並ぶ研究室が

広がる…煉が入るには狭すぎる部屋だ…二人が

かつて閉じ込められた牢獄の先ではない空間に

繋がり、記憶とは歪んだ別の部屋へと繋がる…


「これは…空間そのものが別々に繋げられて

いるのか…?見たことも無い場所だ…」


(つまりは…ポータルで遠い所と繋げてるのか!)


「なんでそんな事をするの?」


「恐らく…この遺跡の中に水を入れない為ね…

数少ない生き残りが魔術で部屋を無理矢理繋げて

生き延びていたのね……魔力の貯蓄が出来る魔道具さえあれば術者が死んでも維持は可能だし…」


皆が部屋を探索する中、入れない自分だけは腐臭のする牢の前で待機する。食欲が無くなって空腹が

収まるだけまだいいが…その時、傾いた扉が自然に閉まった…


「あ」


再び扉を開けようとすると触れた扉が倒れて

崩れる。その先は特別な牢獄への道があり、

牢獄には妖艶で美しい女が静かに佇んでいた…


「……あら?お客さんなんて久しぶりだわ。

それにとっても珍しい…一つ質問したいのだけど…看守さんがずっと来てないの…迷子なのかしら…」



「多分全員死んでると思うけど…」


「…あぁ…また…新しく産まれる時なのね…また

会えるかしら…」


随分とポジティブな考えの彼女はこちらに尋ねる…


「ねぇ、龍の方?もう一つ聞きたいのだけれど…

ここは立ち入り禁止なのに…一体どうやって

入ってきたの?ルールは守らないと駄目よ?」


「分からん…迷子でね…案内頼んでいい?」


「良いけれど…私は大罪人よ?こわーい厄災を 

もたらすって言われる力があるって言われてる

こわーい人なのよ?」


「私も大罪を持ってるから気にするこたぁ無いよ、何せ大罪を消す方法を探してるし。」


「うーん…それじゃあ案内をするけど…

この牢屋からどうやって出ましょう…」


「ちょっと離れてて…よいしょ…」


鉄格子を摘んでゆっくりと引っ張って外す…破片が飛んだりしないように鉄格子を壊す…


「よぉし、そんじゃ行こうか。」


「ありがと、龍の方…お互い自己紹介しましょ…」


「あぁ…私は鬼花 煉、暴食の大罪を持つ…君は?」


「私はマリネア・トロバ、色欲を持つ女よ。」


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