第11話 腹が減っては生きてはいけぬ

「ええ!?レンが去って行った!?どうして

止めなかった?」


「一応感謝の宴をするつもりだったんだが…」


「えぇ…キャメル…森を焼いた奴だぞ?本気か?」


「メーヴル!それとこれとは別だニャ!というか

ニャンで去って行ったのニャ!」


「…あいつは暴食の代償による飢餓を抑えるのに

限界が来てたみたいだからね…ここの住人達が動く飯に見えるとか何とか言っててな…無理に引き留めたら、皆あいつの胃袋の中に詰められてたんじゃ

ないのかい?」


「な…!?そんな兆候は一切…」


「まあ…痩せ我慢を悟られない様に精神力で

誤魔化していたんだろう…アンタがキーケと

仲直りするまでずーっと腹ペコだったんだろうね…鑑定で見ても、もう正気を失いかけてる状態に

なってたよ…」


「そんなこと…自分だけ抱え込んで…孤独に

去るなど許せん!別れの挨拶一つも無しに…!」


「暴食の代償さえ抑えれば、もう一度会ってくれるかしら…私達は、彼のお陰で大罪を抑えられたの

だから…こちらだけもらってばかりなのは私達も

気が済まないわ…」


「そうだね…それなら!大罪を抑える為の魔法具アーティファクト探しに行く気は無いかい?」


「そんなものがあるのでしょうか…」


「決まってるだろ!ランチスの未知の研究には

関連する論文がごろごろ転がってるに違いないさ!

海底の最下層の先にある深淵に潜る必要はあるが、

セドナとレンならなんとかなる筈だ!その為には!逃げてったあいつをとっ捕まえて協力させりゃ

いいのさ!さぁ!野郎共!準備開始だよ!」


「まだ始まったニャ…お宝探し…」


(本当は沈んだランチスの宝が欲しいだけ

なのだろう…)


「どうやって探すの?」


「簡単だ、キーケに取っ付けられた恩寵が

発せられる元を辿りゃいいのさ…」


「…あ、忘れてた…」


「それの効果が分からない分、それくらいしか

使い道は無い。さ、とっとと準備しな!」


なんだかんだで龍の探索が始まった…


────────


セドナ達から離れた煉は空腹を満たせずにいた。


(ああ…食い足りない…!腹が満たされん!)


煉は捕らえた生物の肉を平らげながら次の獲物を

また探す…歩んだ後には引きずられた血痕と

荒々しくえぐられた爪の跡が地面に残る。


「全く…煙くさいわ…よそでやってはくれんか?」


背後から聞こえた声には振り返るが…何もいない…


「こっちじゃ…もっと下じゃ下。」


目線の下には緑色の植物を衣服の様に身に着けた

ナマケモノがこちらを見ている。


「なんだお前…」


「全く…血気盛んなこって…近頃の若いのは…儂はレイタースロースのサルミアじゃ。食べた所で

美味くは無いぞ?」


(聞いた事がある…確か魔力を完全に分解して

栄養に出来るけど凄い弱くなった生物だった…)


「まあそうじゃが…儂の同族は必死に生きてるからそんな風に思わんでほしいの…」


「…勝手に心を読むな。」


「まあいいじゃろ…飯の事しか考えとらんし…」


「…で、なんの用?」


「年寄りからお主にアドバイスをやろうと

思ってのう…」


「何がアドバイスだこのクソジジイ…」


「ひどい言い草だわい…お主の大罪について

話してやろうと思ったんじゃがの〜?」


「お前…なんでそんな事知ってる…」


「儂は人呼んで[怠惰の隠者]…お主と同じ大罪を

宿す者…まぁ…お主とは違って、大罪に縛らずに

生きているがの…ほほほ」


「何が言いたい?」


「…お主、その飢餓から解き放たれたいとは

思わんか?」


「そんな事当たり前の事を聞いてどうする…」


「なぁに、そこそこ前に聞いた風の噂でな…

なんでも沈んだランチスには大罪を祓う為の力を

研究していたらしくてのぉ…」


「…こんな樹海の奥底に噂など流れ込むものか…」


「人の噂ほど軽いものは無いぞ?タンポポの綿

みたいにひゅうっと風に吹かれて飛んでいく…

まあ…それが真実とは限らんがの、ほほほ…」


「そんな情報なら余計信じられない…」


「この噂の出所が強欲のメーヴルだとしてもか?」


「あ?」


「ほほほ…なんでも、お主らの大罪を祓うという

大義名分を盾にランチスのお宝探しが出来ると

意気込んでいるらしい…面白いとは思わんか?」


「…まあ、あの人の考えそうな事ではあるか…」


「興味が湧いた様じゃのう、メーヴル率いる少数の部隊が秘密裏にエルフ達のルフティ国に向かった

そうじゃ…ルフティはランチスの沈んだ場所に

最も近い国…そして更には真龍が渡ってきた…

どうじゃ、面白くなってきたじゃろ…」


食事を平らげた煉は飛んでいった…


「……全く、話の途中だというのに行っちまった…老いなど無縁な龍の癖に生き急ぎおって…」


[もしもーし?聞こえとるか?]


[しつこい…いつまで話すつもりだ?私の事だろ…さっきのウワサとやらは…今から戻ってお前を

焼きに行ってもいいんだぞ…?]


[おお怖い…まあ続きを聞け…ルフティの奴らは

ランチスに起源にもつイースト教の信仰が盛んだ…

そして…イースト教にとって大罪とは最も忌むべき災厄の招き手だ…お前さんらがいたスタットや

ナディはメーヴルの支配下だが…本来ならば…

屍凍しとうのキーケも氷禍ひょうかのセドナも殺されてただろう…]


[じゃあ何でそんな所にメーヴルは向かってる…?]



[何せ…この数千年の間、あの国は外の世界との関わりを絶っていたからのう。それこそ、メーヴルがまだよちよち歩きな幼子だったころにな…情報網の広いメーヴルといえども…産まれたての頃はまだ

何も出来ん…]


[本当だろうな…]


[さあな…風の噂を鵜呑みにしちゃあいかんよ…

っと…そろそろメーヴル達がルフティに着くぞ。

急ぐんだな…]


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る