第8話 隣の飯は美味く見える
セドナとキーケの再会は悲惨を極めた…そして
彼女達は…
「…新しい大罪の持ち主…何年ぶりかねぇ…
キーケを拾ったのがもう一世紀も前になるね…」
「テトならば覚えているでしょうが…私は生まれてすらいないものでしてね…む…テト、キーケの
様子は…」
「…駄目ニャ…昔の様に生きる意志を失った暗い目になってしまった…俺のせいだ…」
「あぁ…全く…朱いのも面倒な事してくれたね…
しかしあの嬢ちゃん…ずっと妹だけを思う姉を
恨み続けたとはね…全く度し難いね。
…それにしてもキャメル…」
「何でしょうか…」
「お前のとこのルーキーが固まって動かねぇぞ?
一体どうなってんだ?」
「…何せ、簒奪の女王ともあろうお方がいれば
緊張もするでしょうね…」
「全く…この前まで同じ様にビビってたケツの青い
小僧が言う様になったじゃないか!ハハハ!」
(落ち着け…落ち着け俺!女王が普通に町の
ギルドにお忍びで来てるだけだ…!)
「戻りました!ギルド長!…あら…?」
(コレットォ!?ま、まずい…今は…)
「おや…アンタどっかで見た面だ…あぁ…!
親ばかエルフの孫だ!」
「あ…お久しぶりです…メーヴル女王…」
「そういや…お転婆娘が家出したなんてアンタの
爺ちゃんから聞いたが…こんな所にいたのか…」
「御爺様達には内密にしてありますので…」
「やっぱり町は面白い事ばっかりだね…!
女王の仕事は暇でつまらないからね!」
「???」
(なんで知り合いなの???)
「女王様…キャディンが情報の
処理をしきれていません…」
「ん〜?ぷっ…フフ、ハハハ!面白い顔するな
小僧!まぁ、このメーヴル様相手に緊張するのは
間違ってないからな!しかし…いいな…いずれまた
お忍びで来るとしようか!そんじゃアタシは帰る!
護衛はいらないよ!」
メーヴルが会議室から出る頃にはそれまでの豪快な王族の振る舞いから野心高いギルド冒険者の気配へ切り替わり、人々に紛れていった…そして少し
経った頃…
「大丈夫か?キャディン…まぁ…私も最初はそう
だった…あの人には慣れる他無いぞ…」
「寿命が縮みました…情報を処理できませんよ…
突然のメーヴル女王来訪に、コレットが
ダークエルフの王族でキーケさんに妹さんがいて…
情報が多い!」
「黙ってたのは悪いけどさ?私が王族に詳しいとは思わなかった訳?」
「それは…そうだけど…!」
「まぁ…私も驚いたけどさ…あの龍が喋れたとか
もそうだけど…キーケさんの妹よ!まさかランチス消失から生きてるとは思ってなかったわ…逃げられなかったからって恨むとかちょっと酷くない!?」
「いいや…理由はそんな単純じゃないニャ…」
「え?」
「昔…ランチスの下見と大罪持ちの回収を目的と
した奇襲作戦を実行したのが僕なんだニャ…
その日はあのティエルスフが島を襲った日だった。
奴が恐ろしく…死にたくなかった…結果として…
救えたのはキーケ一人だけ…命を掛ければ
救う事も出来たかもしれないのに…
僕だけは彼女達に恨まれるべき存在なんだ…」
「で、でも牢のキーケさんが殺される前に
助けられたのよ?それは紛れも無い事実…」
「滅ぶ前のランチスはイースト教が盛んで…大罪の
スキルを持つ者であっても…不殺の教義により、
処刑される事はなかったニャ…」
場は静まり返る…
………
「……ぁあ…ごめんなさい…セドナ…私が…
あなたと共に生きられなかったから…」
キーケは身も心もボロボロだった…
(どうして私は…セドナと笑い合えなかったの…?
なんで…あれほど望んだ再会を…自分の手で成し
遂げられなかった…?どうして……同じ大罪を
持ちながら…あの龍はセドナの友になった…!)
無力感と怒りが支配する感情が渦巻く…
「私が人間だから…?どうして…私では無く…!
突然現れただけの化け物に!」
怒りと妬みが精神の殻を突き破り、抑えることが
出来なくなる…
「あの邪魔な龍を排除して…!!私が…!セドナと同じになればいいの…?」
砕かれた籠からキーケの罪は産声を上げた…
……
……ランチス海域、ナディ国の対岸にて…
(はぁ~…どうやってチーズなんて作れない…
妥協案もない…どうすれば…)
「なぁ…」
「どうした、チーズはまだ見つかってないよ?」
「…それはもういい…これまで黙っていた妾の
過去について語ろうと思う…これは…詫びの
つもりではない…」
(不器用な子だ…)
「妾は…ランチスの出身でな…母は[色欲]の大罪の持ち主…穢れ達の聖母と呼ばれた人間である
マリネア・トロバと魔獣との間に産まれた
[
大罪について詳しいのはそれが理由だ…」
「……」
「知っての通り、ランチスは讃祀のティエルスフに
沈められた。それにより、妾とキーケ以外は全員
死んだのさ…もちろんマリネアも死んだだろう…
生き延びたとしても…短命の種族さ…千年以上は
生きられん。」
「そう…か…」
「キーケは、私の檻の隣に閉じ込められていた…
外から連れてこられた[嫉妬]の大罪の持ち主、
私は[
凄いものさ…憧れだったよ…」
「なら…何で恨む?」
「だからこそ…許せないんだ…!
いつの日か彼女が私を救いに来ると信じ続けた…!毎日毎日変わらぬ灰色の日々を記録し続けた…
本を読み漁ろうと…魔術の研究をしようと…
それでも心は満たされなかった…千年以上
経とうが、いつまでも来る事は無く…!
もはや何が正常かすら歪んでゆく…」
「…私には…分からない…何を想うべきか…ただ…
あのまま二人がぶつかるのは…なんか嫌だった。」
「あぁ…キーケを傷つけたかった訳では無いのに…私は既に狂っているんだろう…!こんな怒りに
正当性など無いとは分かっているんだ…だが…!
何をしてもこの怒りが鎮まる事は無いんだよ!
怒りばかりが溢れて止まらない…愛している筈の
キーケに怒りと憎しみ以外が湧いてこない…!
…私は…何をすればいいか…分からない…!」
「…セドナ…私はそういう時…必ず何をするか
決めている…それが…君にも通じるか…
定かではない…だが私はそれしか知らん…」
「…何だ…?」
「腹一杯まで食べて愚痴る!それだけだ!」
「……え」
「たしかに!今まで君は独りだった…!だが!
今は違う!セドナの姉ちゃんと食えるだけ食って
お互い不満をぶち撒けりゃ気分が晴れる!
多分!きっと!いいや絶対なる!!!!」
「…全く…いつもと同じではないか…期待した
妾が馬鹿だった…くふふ…ハハハ!」
声に少し活力が戻る…
「それならばレン!必ずチーズを見つけ出せ!
チーズ以外は許可しない!」
「応よ!最高の飯をたらふく食わせてやる!!
そうと決まれば人間の町に行くぞ!」
「…………え?何で人間の町に?」
「チーズってのはな、家畜の乳を使う飯だからな…
人間以外が作る事は製造の過程から見ても
無理だろうな…」
「いやいや!だからって略奪をするのはな…!」
「へ?ちゃんと対価を払えば良いんだから、
略奪なんてしないよ…」
「通貨など無いが…どこに行くつもりなんだ?」
「あそこの町だね…」
「ん〜…あそこは…確かナディ国付近だ…
メーヴルの領地だぞ?やめておいた方が…」
「襲うんじゃないんだから…別にいいでしょ!」
「…全く、考え無しには困ったものだよ。
どうなっても知らないからな…」
──────────
スタットの町に場面は移る…
「う…うぁあ…キー…ケ…何故…!」
「大人しくしててね…ママ…全部は変えないわ…
混じっていれば…セドナは受け入れてくる筈よ!
ほら!手が人みたいに変わってきてるわ…!
赤ちゃんみたいで可愛いわ…!うふふ…
きっとセドナも仲間がいっぱいで喜ぶわ…ふふふ…あははははは!」
「狂気の沙汰だ…人間を
「キャメルギルド長…貴方はセドナの何を
知っているの?百年生きる事すら危うい様な
お前ら人間に!何がわかるの!?私はね?
…セドナを失った孤独をずっとずっとずうっと!3614年と45日と9時間も味わってるんだよ!!」
「それは…セドナさんも同じだろう…!」
「はぁ…君は確かキャディン君とか言ったね…
何が言いたいのかな…?」
「テトに…二人が再会したあの時の様子を
共有してもらって分かった…怒りと悲しみ以外に…
必ず助けに来ると信頼していた事…共に沈めば
何も苦では無いと言い切った!今でも貴方に
愛していなければ出てこない言葉だろう!
どうして分かってあげられないんだ!」
「…何で?何で…そんな風に考えるの…?
私が間違っているとでも言いたいの…?」
「当たり前だろう!貴方の今の行いは…!
セドナさんの信頼を裏切り侮辱する事に他ならない
じゃないか!」
言葉を遮ってキーケの魔法がキャディンを完全な
魔獣へと変える…
「はぁ…はぁ…あ…駄目だわ…戻さなきゃ…」
「セドナを迎えに行くのに…一人でも欠けてたら…
皆が受け入れた事にならない…」
キーケは虚ろな目でぶつぶつと呟く…
「待っててね…セドナ…私の愛しき妹…」
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