第7話 姉妹喧嘩は龍でも喰わぬ

「ハグルルルゥ…!ハァグッ!」


「や、やめ…まて!」


「グォウッ…ハグッ!」


「お、おい?聞いているのか?」


「グルルぅ…」


「そんながっついて食うと妾の分がすぐに無くなるじゃないか!」


[んな事言ったってね!美味いのよ!塩って

素晴らしい!いくらでも胃に入るよ!しかし…

テレパシーは飯食いながら喋れるし便利だね!]


「全く…念話は基本遠距離通信の魔術だぞ?

飯を喰いながら喋る為にあるのでは無いぞ…」


[んえ?これ魔法なの?なんとなくで出来たよ?]


セドナの食べる口が止まる。

同時に煉も食べる口が止まる。

そして一旦手に持った魚を食べ終える。


「はぐはぐ…おにゅし…本気で言ってるのか…!?便利だなんだと変な事を言っとると思っていたが…まさか魔術をなんとなくでこなすなんて事を

していたのか…?お主の技術ではどうやっても

そんな事をするのは無理だろう!?

なんとなくでやってるってどういう…!」


(出来るのが凄いんだったらもっと褒めてくれてもいいのにな〜…)


「そういえば…火を吹くのはどうやっている?」


「え?こう…深呼吸みたいにすーっ…と吸って

ぶふーっ!てな感じだよ!」


セドナは頭を抱えだした…これ以上分かりやすい

説明は無いと思うんだけどな…分かんないのかな?


「煉よ…龍炎の息とはな…魔術なのだ…確かに

真龍は喉に簡易的な龍炎の魔術式が出来る…個体によってはそれがより洗練されたものとなり…

より精密で密度の高い式を作り、凄まじい炎と

する事がある…しかしだ!お主にはそれがない!

スキル欄にも!飯を食っとる時にも見えたが!

そんなものはない!そんな状態でありながら何で

自由自在に魔術を使う!?」


[ははぁ…魔法ってなんか難しいんだね…]


「魔法じゃなくて魔術だ!」


[何か違うの?]


「はぁ…一度説明がいるようだな!?

この世界に溢れる魔力はな!本来生命体にとっての毒とされていたものなんだよ!」


「………?」


「古代にそれを克服した生命体は体に取り込んだ

魔力を体内で毒性の無い魔素に分解する能力を

身に着けた訳だ。」


「?????」


「力の九割は取り除かれた毒素にある!

つまり、力は大幅に弱まる!複雑な式を展開

しなければ最大限の力は出せない!」


[…これなんの話?]


「最後まで聞け!魔法は魔力に含まれる毒素全てを使うから体が魔力の毒性に耐えられないんだよ!

つまり命を燃料にしているも同然なのだ!

煉がそれを使ってるなら何で平気なんだよ!」


[なるほどなるほど…確かに…なんでだろうね?]


「ぬがあ!」


セドナはひっくり返ってしまう。


「ハァ…これ以上考えるのは無駄だな…全く…!」


「まぁまぁ…これ食って落ち着きなよ。」


「食べたばかりではないか!全く…もぐもぐ…」

 

(結局たべてるし…怒る事無いのになぁ…)


[あ、もしかして毒が効かねえんじゃねえの?

完全にエネルギーにできるとかさ。]


「…毒を栄養にするのに必要なエネルギーが

小さいと思ってるようだな…確かにその様な生物がいない訳ではないが…そいつはレイタースロースといってな…魔力の栄養化に特化しすぎて身体能力が低いせいで殆ど動けないし肝心の魔法も使えない!

なんなら魔術も使えない位退化した!それで

ようやくトントンなんだよ!つまり!あり得ん!」


もぐもぐ…[つまり…理論上可能なだけなんだね…]


「そうだ、お主のスキルにそれを可能にする

能力は無かったし、体にも魔術を強める器官は

無い…」


[まあ気にしてたら腹が減っちまう…ん〜?]


近くから隠れる気の無い足音がズカズカとこちらに向かって来ている…人間の足音だ。


[人がこっち来てるみたいだね、どうする?]


「この冷い感触は…そうかぁ…フフフフ…」


(知っている人物なのか…?)


姿を現したのは三人の人間と一匹だった。

一人は帽子を被ったキザなスーツ男、もう一人は

かつて撃退した白髮の耳長の少女だ…あの時の

黒猫もいる…最後の一人は荒々しい雰囲気を

漂わせる女だった。シンプルだが、豪華かつ上品な金品で彩られた格好で長い金髪をなびかせている。


「オイ!そこのトカゲ野郎!ちょいとしよう

じゃないか…このメーヴル・シルフ様とね!」


(あ…大罪の一人だっけか…案外話が出来るタイプなのか…この場の全員に聞こえるようにテレパシーを使わなきゃな…)


[もしもー(!!!キイィィィイン!!!)


「ウニャア!?」


(おっとしまった…ミスってマイクのキーンてやつ

みたいなのが発生しちゃった…)


「何だ…喧嘩売ってんのかい!?」


ザザ…ざ…「あー…(ザザ…)…もしもし…きこえ

ますかー」


「念話か…!まぁ…下手クソだが、

トカゲにしちゃあ礼儀がなってるじゃないか…」


「真龍が人の言語喋るとは……」


「やはり…何考えてるか意味不明だニャ…」


「……やはり母親とは思えない…」


「…そんで何の用かな?私はまだ食事中なんだよ…あぐあぐ…」


「聞いた通りの変な奴だ…お話ってのは…ウチの

部下の話さ…アタシらは単なる付き添いだよ…」


(あの口ぶりで本当に話しに来ただけなのか…)


「セドナ…ずっと会いたかったわ…私の義妹…」


(セドナの姉ちゃん!?ど、どうしよしかも感動の再会って場面だよ…この子を吹っ飛ばした挙句

睨みつけてビビらせちゃったよ…!セドナに顔向け出来ないよ…!)


「…もずうっと…会いたかったぞ?…キーケ…」


「セドナ…私は…」


「お前を殺す日をずっと…ずっと!

待ちわびていたぞ…私を見殺しにして一人

逃げ延びた薄汚い裏切り者が…今更義妹などと…

よくも口に出せたものだな?」


(あれ…何か…何!?)


「何だい…雲行きが怪しいよ…」



「まあ仕方あるまい…!お前は人で!私は歪んだ

怪物だ!私を見捨てて、その獣と逃げた記憶など!

数千年もすれば忘れもするだろうさ!」


「違う!ちがうの…セドナ…」



「何が違う!?一人で逃げた恥知らずにはあの獣もそこの人モドキも教えてはくれなかったらしい!

最初から歪みも淀みも知らぬお前の様な人間は!

私の様な醜い混じり物とは相容れないんだよ!」


怒号と共にセドナの魔術が、生命全てのの熱を奪う死の冷気を放つ…


「セ…セドナ…!?やめて!こんな事…!」


「龍の炎に焼かれ、爛れた体で独り…海の底に

沈められた苦しみも絶望も…お前がいれば

何の苦にもならなかっただろうな…だが!

お前は振り返る事も無く逃げていった…今度は

逃げるな…!私の目を見ろ…!」


セドナが顔半分を隠す髪から顔を出す…

目玉は全てが赤に染まり、傷跡が痛々しく残る顔を

露わにする。


「ひ…あ…ぁ…うぁぇ…おぇっ…!おぇぇぁ…」


「そうだろうそうだろう…貴様らの様な高貴な

人間サマにとっては…吐き気がするほど醜いん

だろう!私の姿も!大罪も!この全てが!

大罪を背負っているのは貴様も同じ癖に!」


キーケに向けて再び魔術が放たれる。


「オイ…お嬢ちゃん…その辺にしておきな…」


魔術がメーヴルの装飾によって防がれる…


「チッ…ランチスの忌々しい遺物か…!」


「テト…キーケについてな!キャメルは待機!」


「は!」


(なんでこんな修羅場に…飯食いに行ける雰囲気

じゃないよ…)


「アンタ…セドナっていったね?間違ってる事が

一つある…この小娘を拾ってから…ずっとアンタを

救えなかった事を後悔してた…せめてアンタを弔うだけでもしたいって言ってたさ…」


「何が言いたい?」


「いい加減ガキみたいに喚くんじゃないよ!

血を分けずとも心で通じ合ったなら…

それは家族だろう!?理屈なんか無くても

分かるだろう!あの子はアンタをずっと思ってた…そんな事も分からなくなっちまったのかい!?」


「ククク…貴様がそれを言うのか?人の心など無い大罪人の我らがそれを理解出来る訳が無いだろう!

メーヴル!…私達の様な大罪を背負った不定形の

怪物に人の心なぞ無いんだよ!人のフリをした

所で…貴様も私も人の皮を被っただけの 

怪物なんだよ!ハハハハハ!!

アハハハハハハ!!」


「…もう…いい…もう黙れ…」


剣を引き抜いたメーヴルがセドナに突撃する。

しかし煉の鱗によって剣はバキリとへし折れる…


「…クソがッ…!邪魔すんじゃないよ!

トカゲ野郎!」


「戦闘はやはり避けられんか…!」


「…死なれると食事を独り寂しくしなきゃ

いけない…それに私はね、こういう険悪なムードが大嫌いなんだよ!まあ今回は帰ろう…

後、あの嬢ちゃんにはすまんって言っといてくれ!また会おう!欲しがりさん!」


「離さぬか煉!邪魔してくれるな!貴様とて容赦はせんぞ…!」


「はいはい…怒った時は食べる事にしよう!」


「この…!いい加減にしろ!」


セドナは魔術をゼロ距離で放ち続けるが…煉は

涼しい顔だ。


「クソッ!私の復讐の邪魔をするなぁ!」


「家族を殺したら二度と一緒に飯が食べれないよ!

ちょっとは落ち着きなよお馬鹿! 」


「貴様に何が分かる!?」


「だから!殺したら仲良く飯が食えなくなるって

言ってるだろ!それぐらい分かるよ!お馬鹿!

大馬鹿!アホ!」


「は!?私はそんなんじゃない!!」


「私はそうなんだよ!ほら!行くよ!」


「待て!真龍!」


「はい!?まだ何か!?この駄々っ子をさっさと

鎮めたいんだけど!」


「お前の名前を聞かせな!」


「あー…はいはい…私は鬼花 煉…大罪は多分暴食!

以上!さらば!」 


煉は籠に暴れるセドナを詰め込んでバタバタと

下手な飛び方で去っていった。


「おい!ふざけるな!何をして…!ぬおわあ!?」


「…驚いたね…!新たな大罪の主を名乗るとは…

面白いじゃないか…!レン!ハッハッハ!」


「なんという事だ…新たな大罪が解き放たれた…」


……遠方の空にて…


(ふぅ~やっと大人しくなった…)


「セドナ?元気出しなよ、普段より多めに美味い

飯を食えば気分も晴れるさ!」


「うるさい…は今機嫌が悪い…」


「何か食べたいものある?出来るだけリクエストに応えるよ?」


「…チーズとやらを食いたい…」


(え!?乳製品!?ど、どうしよう難しいって…

盗むのは無いし…分けて貰うにしてもなぁ…)


「出来るだけ頑張ります…」


続く


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