第5話 海底遺跡で相席発生

(あちゃあ…まだ人住んでたのかよ…どしよ?

煙とかは上に向かってってるから換気は出来てる

と思うが…)


「ドラゴンとはな……何故ここに来たのやら…」


女は困惑した様子だが、突然目を

閉じて何かを念じ始めた。


[……よ…龍よ…聞こえているか…?]


目の前の女は口を動かしていないが、声が脳内に

響いてくる。


(うわっ!?…テレパシーかな?やったことないんだけど…えーと…電話みたいにすりゃ

いけるか?)


[…えー…もしもし?ドラゴンです、はい。]


「む…」


その表情は変化してはいないが…恐らく言葉は

通じたのだろう、こちらへの警戒の姿勢が

薄くなった。


[テレパシー無しでも言葉は分通じるよ。こっちは喋れなかったけど…今のでやり方を掴んだよ。

えーと…お名前聞いても?私の名前は鬼花 煉だ。]


「妾は、混魔人キマイラのセドナだ…ここでずっと

引きこもりをしとるが…何用かね?」


セドナと名乗った人間は顔半分が隠れるほどの長い白髪に青白い肌はまるでまるで死体の様で、脚には魚の様な鱗、発達した水かきとヒレが生えている

美人である事も相まって人魚の様である。


[魚取ってたらそこの部屋に入っちゃってね、

上から降りてきたんだよ。]


「…スライムも片付けられてるな…処分に

困ってたし助かったぞ。」


[あっそりゃ良かった…食べちゃったもんだから…]


「…食べたのか?」


表情から困惑が見て取れる。


[うん…美味かった…]


「…スライムを食う様な鋼鉄の胃袋を持つ真龍ドラゴンなら罠など無意味か、全く羨ましいな…」



そう話しているとセドナの腹はこちらに空腹の

サインを示した。いつもなら飯を分ける事は

しなかっただろう…しかし彼女は痩せ細り、

物欲しげな目でこちらを見ていた…自分も普段は

こうなのだろうか…


「おっと…ずっと一人でここにいるから…こういう匂いは久しぶりでの…もしよければなのだが…

年寄りに一匹恵んではくれぬか?」


[いいけど…食えるの?]


「昔なら三匹はいけたな、感謝するぞ♪ここまでの大物は久しぶりだ♪」


セドナは目を輝かせた。こんがり焼き上がった肉に少量の塩をかけ、魚を彼女の大きさに合うサイズに

カットして骨を取っておく。


(よおし…絶妙な焼き加減だ!)


「さて…それでは頂くとしよう…」


脂の乗った新鮮な肉にほんのりとした塩味が

加わり、最後に骨ごと全身に食い付くと骨の髄まで詰め込まれた旨味がぽりぽりとした骨の食感に

乗せられて口の中に広がる。


「骨の髄まで齧り付くとは…見事としか言いようのない食いっぷりだな…」


そう言うセドナだが、自分より大きな魚をガツガツと貪り、既に半分食べている…


[君が言えた事では無いだろう…そのサイズに

どうやって詰めてんのさ…]


「既に十匹を食い尽くしてるお主にも言えるぞ?」


[確かにそうだね……]

 

「むふぅ…たまにはこういうのも良いものだ…

昔はように腹一杯食べる事が出来ると…地上が

恋しくなるな…」


[私はまだ腹ペコだがね…外に出ないのか?]


混魔人キマイラは嫌われ者でね…妾が外に出る事は許されん…

それに寝てばかりは嫌いでは無いさ…」


[そう…]


(まぁ…この子を連れ出した所で飯が増える訳でもないし特に言う事はないな…)


「しかし…肉を食う真龍なんて、どの生物にも変な奴は居るものだな…」


(へ?)


「真龍は雲の上で霞を食うと思っていたが…」


[どゆこと…?少食過ぎない?]


「…もしやお主…ドラゴンとは全く別の

生物ではないか?…ちょっと[鑑定]させてもらってよいかの?少し興味が湧いた。」


[鑑定?えと…何をどうやって…]


「…もしかしてスキルも知らないのか?」


[…ごめん…専門用語は分からないんだ…]


「専門用語…?常識…というか…本能で分かる

ものだろうこれは…まあいい、鑑定するぞ。」

 

[あっはい…]


セドナの目から模様が浮かび上がり、目から光が

照射される。


(!?)


突如として発せられた光に体が拒絶反応を示し、

反射で光を叩くと、光は弾かれて消える。


「鑑定が妨害された…?」


[あ…ごめん…ついびっくりして弾いちゃった…]


「成程…一応スキルは発動出来ると…」


[目を瞑るんでその内にお願い…]


目を閉じて鑑定とやらを受ける。アイスを一気に

食べた時のようなキーンとした不快感がした。


[うわわわ…]


「終わったよ…しかし慣れていない様子だな…」


[うん、初めて喰らったよ…それで鑑定の結果は?]


「ちょっと待っていてくれ…ここは古い道具

ばかりでな…」


彼女が部屋から青銅で出来た何かをずるずると

引きずってきた。


「取り敢えず…この鏡に結果を映す。お主の能力をここに表示する訳だが、ステータスは本人にしか

内容を把握出来ないものもある、だから妾にも

全部読み取るには限界はある。」


そう言うと彼女は青銅の鏡に力を込める。

そこには日本語の文字列が大量に浮かび上がる。


「困った…見たことも無い字だ…どこの国とも特徴全てが一致しない…読めるか?」


[ああ、えー…どれどれ?まず私の名前があって…種族が真龍ドラゴン…生後26日…レベルが…

空白になってるね…]


「レベルがない?恐らくレベルの有無はスキルが

関わっている筈だと思うが…」



「取り敢えず次…パラメータか…知能94…

技量が102えーとひぃふぅみぃ…えーと力が百万を

ちょっと超えてる…精神に至っちゃ何か…文字が

おかしな事になってるし…普通どんくらいだ?]


[海底の強物でも約十万台…知能と技能は妾にも

劣るが、圧倒的な肉体の力でお釣りが来るぞ…]


卵からは産まれた時から思っていたが…やはり

自分は結構強い様だ。


[へー…えと、次が…スキルで…?毒耐性レベル8…全属性耐性8…完全再生レベル2…

それと…………]


所持していたスキルは殆どが耐性や使用出来る能力で、火炎放射や調理技術などもスキルとして

含まれていた…


[汎用パッシブスキルは合計30超え、その大半が既にに最大レベルに到達している物もある。生後26日でこれとは…それで、固有ユニークスキルはあったか?」


[えーと…あ、これかな?取り敢えず一番なんか…地味そうだな…ショボそうなのから見るよ…

スキル[偏食]…食事に拘りを持つようになり、拘りを無視した食事をした場合に吸収する

エネルギーが大幅に減る…ナニコレ?]


スキルというものが必ずプラスに働くと思っていた

煉は落胆する。


「代償スキルか…制約としては微妙な様に

見えるが……」


[次…[渇望]は…魂に刻まれた最も強い欲望を

満たすまでは渇望が増え続け、飢え続ける…

また使えない奴…ていうかこれのせいで腹が

減ってたのかよ!碌でもないな…]


「…まあ、まだ弱いと決まった訳じゃないぞ…

固有スキルはあるだけでも特別なんだから…」


[…次も期待出来そうにはないけどね…次は…

暴食、レベルアップがなくなり常に飢餓に陥る。

代わりに殺した生命を喰らう事によってに関連するステータスが際限なく上昇する…]


「な…一体何だこのスキルは!?」


[いや…限界が無くなるって…書いてる事は

強いんだけどさ…デメリットが大きいよ!

不釣り合いだよ…私は別に最強になりたいんじゃ

無くて、腹一杯になって幸せになりたいんじゃあ!いらないよ…しかもこれ以上スキルがないし…ん?

どしたのセドナ…]




「…この固有スキルの数が奇数…それにこの能力…君は大罪の持ち主か…」


[たいざい?]


「…誕生する事すら罪となるような…

この世界で最も忌み嫌われ、恐れられるスキル

といえば分かるかな?人間は大罪の子が産まれた

一族を皆殺しにするそうだよ?怖いねぇ…」


[えぇ…?酷い…]


「しかし…大罪と呼ばれるだけの理由もある…

何せ、国を滅ぼしたり、地図から島を一つ

消したり…全ての生命を虜にして操ったり…」


[あぁ~…そりゃあ仕方ない…のかな?]


「まあ…どうでも良いことだ…どうせ妾には影響

などない…人も獣も全て敵だ…外に出る事は

叶わんさ…」


その表情はどこか寂しげで、諦めを感じる。


[…そんだけで諦めちゃ勿体ないぞ?私も人類に

喧嘩吹っ掛けられるけど…どつけば逃げてくし。

一緒に外出ない?]


「何だ…?情でも湧いたか?」


[いや…孤独な食事って寂しいんだよ。仲の良い奴と賑やかに飯を食べると何倍も美味いのさ!

だから…別に情が湧いたとかじゃないんだぞ?]


「…本当におかしな龍だ…こんな年寄りの何が

気に入ったのやら…分かった分かった。

しかし…外が気に食わなかったら返してくれよ?」


[承ったよ!そんじゃ、飯の探求へいざ行かん!]


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