第4話 異界の大海
テト達はギルドに戻って来ていた…
「まさか…龍に恩寵を与える力があるだニャんて…毎回想像の上を行かれるニャ…」
「それに角まで置いていった…一体何が
したかったのかな…何か描かれているし…」
「…何にせよ油断ならない存在ニャ。行動を
注視する必要はまだあるニャ…」
「テト…ギルド長いるかな?いつ来てもいないし…
今日もいないんじゃ…」
「今回ばっかりはいるさ。」
キャディンの背後からぬっと男が現れる。
「うわっ!?いきなり背後から来ないでください!
ギルド長にそれやられると怖いんですよ!」
「悪いね、君はいつも反応が楽しいのさ!」
「キャメル、そんな事してる場合じゃニャいぞ。」
「はいはい…それじゃ、本題に入ろう。あの真龍が
俺らの町スタット付近から隣のナディ国方面へ
向かったが…偵察隊を振り切って雲の上まで
飛んでっちまって以降、音沙汰無し…落とし物は
単なる石器で、特別な力は宿っていない…」
「行き先はモグ二ン山脈の様です…」
「キーケは奴を見たのか?」
「それどころじゃないニャ…ほらこれ…」
テトが空間に穴を開けて中から物を取り出す。
「おい…外でもそれやってるんじゃ無いだろうな…
珍しいんだから…」
「どこらへんに仕舞ったかニャ?…あったあった」
空間の内側から人一人程の大きさにもなる角が
取り出される。
「こ、コイツは!?真龍の角!?」
「…信じられニャいと思うけど…自分で折って
捨てていったニャ…しかも頭を下げたのニャ…
プライドの高い真龍がわざわざこんな事を…」
「…なるほどな……」
「どういうことニャ?」
「…奴が飛び去っていった後…森を調べに
行ってな…そしたら森の奥に真龍の割れた卵
があったのさ…」
「えっ…」
「しかし…龍は一体だけしかいなかった…死体すら
残ってはいなかった…あの体躯からして、奴が
あの卵から産まれたということはありえん…
奴は子供を失ったばかりの母親だったんだろう…」
「…ファランクスボアの大群を皆殺しにしたり…
キーケに呪いを掛けたのは…子供を失った怒り
だったのか…」
「…とはいっても、これはあくまで仮説だ。
真実とは限らん…奴が人類の天敵と成り得る存在である事に変わりは無い…引き続き、奴を見張る事になるだろうな…」
(…違う…有り得ない…あの目に…あの声にそんな悲痛な思いなんて無い純粋な怒りそのものだった。あれは…あの光景は…)
────人々が悩む中…煉は…
(捕まえたはいいけど…調味料が無いし…結局肉は
丸焼きにして食べる他無い…)
調味料等を途中で食い尽くしてしまい、薄味の飛竜肉を齧っていた…
(ここは森より食い物が小さいし…そもそも
生き物が全然いねぇし腹が満たされねぇ…
何か獲物は…お…)
山の斜面を駆け上がったその先には…
青々とした美しい海が目に入る。
(海だ!魚食い放題だ!それにこの匂いからして
地球と同じように塩が取れる事は確実!やったぞ!遂に万能調味料の塩が使い放題に!!)
ひとまず山を降り、海岸へと走り出す。
(おおー…海全体が透き通って珊瑚礁が見えるぞ…魚達も沢山いる!道具も無いし素潜りでもするか…おっと…その前にいろいろ準備しなきゃな…)
一旦来た道を戻って、山中で採集した岩石を適当に形成して籠を作る。
(これに魚を入れて持ち帰ったり海水を掬ったり
出来る…尻尾にぶら下げられるように取っ手や蓋を
付けた改良版だ!ついでに鍋としても使える!
準備万端!…しかし…この身体で泳げんのかな…
まあやってみるか!)
海へと向かい、海中に入っていく…そしてずっと
違和感が一切無い為忘れていたが、煉はふと
気づいた。
(あれ…私これまでに殆ど呼吸していないな?
息を止めても全く苦しく無い!)
思えば呼吸は炎のブレスや咆哮する時以外に使用
しておらず、呼吸をせずとも大丈夫らしい…
(思ったより泳げるな…しかし…全然捕まらない!
手段はあるけど…前みたいに暴れすぎて獲物が
寄り付かなくなっちゃ困る…ん?)
逃げる獲物が洞窟の内に逃げ込んだ…
(海底洞窟…行き止まりなら捕まえられそうだ!)
地下に続く洞窟へ入っていくと、そこには驚く程の
巨大空間が広がっていた…壁から突き出た結晶から
青い光に照らされて、舗装された道や階段が見受けられる。
(…これは…海底遺跡か!?…まあ飯以外に興味はないな。)
遺跡の内側には大小問わず、様々な魚達が
隠れ住んでいた。大きな魚に狙いをつけて
追い詰める。
(よし、お魚獲ったどー!大漁大漁!)
籠を振りかざして魚を海水ごと中に突っ込んで蓋を閉める。
(さて…陸に上がったら塩も作らなきゃな…!)
だが、魚の住処にに入った途端に壁から光が灯る…
すると壁が動いて出口を閉ざす。
(あっ!閉じ込められた!…まぁ、壁をぶち抜けば出られるか…でもここは見事な遺跡だし、壊すのは
ちょっと気が引けるな…)
呑気にしていると、閉じられた空間が下へ下へと
向かっていく。
(ん?何か下がってってる…)
小部屋の動きが止まると反対の壁が開く。
下っていった先はどうやら浸水が無い様子だ。
(あー…もしかしてエレベーターか?)
エレベーター内の水が一気に外に開放され…
排水溝に流れていく。体をブルブルと震わせて水を飛ばしながら先に進んでいくとそこには…泡立つ
緑色の液体が蠢いていた…所謂スライムという
奴だろう。
(メロンソーダみてえだな…ちょいと一口…)
近づいてくるスライムの体を一口つまむと口の中に爽やか味にシュワシュワとした感触にぷるぷるした食感、駄菓子の様な懐かしい味がした。
(ゼリーみたいでうまいな…昔こんな駄菓子が
20円位で買えたっけ……)
味わっているとスライムが削られた体を徐々に再生していた。
(これは…体が再生していくらでも食べれるのか…でも再生するのが遅えな…ええい!待ってられん!全部食っちまおう!)
中央の赤い部位を液体ごと食べるとハードグミの
様なコリコリとした程よい食感に甘酸っぱい味が…
ゼリーの様な体と合わさり抜群の味だ!
(しかし…貴重なおやつが…やっぱもっとちびちび
食えば良かったかな…魚でも焼くか…)
久々の甘味は駄菓子の様に儚く消えた…
悲しみつつも籠の蓋を開けると、人よりもでかく、
活きのいい魚が狭い籠にすし詰めになっていた。
(寿司か…米があったら食いてえな…まあ今は
刺身と焼き魚くらいしか…あ、そうだ。籠に海水が少しあるな…これでちょっとは塩が作れそうだ…)
海水を火で熱し続け、ようやく塩の結晶が見え
始めた。
(初めてにしてはまあまあかな?ほんのちょいと
しか無い分最後に使うかな…)
魚を爪で捌いて程よい焼き加減になるまで弱めの
火を吹きかけてでじっくりと火を通す。
(うーん…いい匂いだ!…ちょっとつまみ食い
しちゃおうかな〜?)
焼き魚の香りを肴にしながら刺身を口にする。
脂の乗った新鮮な赤身に舌鼓を打ちつつ魚を
焼いていると…背後から音がした。
そこにあるのは壁のみだ…しかし壁から光が灯り、
扉のように開いている。
(飯の途中なんだがな…)
煉は意に介することなく魚を焼いては食べている…
しかしその食事は一時中断される事になる。
「……え?」
不意に後ろから声がした…開いた壁はどうでもいい
煉だが、さすがに人間の声には反応を示した。
振り向くとそこには病的な青白い肌にボサボサの
長い白髪、鱗に覆われた両脚を持つ女が
立っていた。
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