第3話 食べ放題の代償

「…ここ…は…あ…!」


「目が覚めた様だニャ…良かったよ…!」


キーケが目を覚ました…あの様な怪物相手に…

彼女は勇敢に立ち向かった…俺は…何も…

出来なかった…自分一人では禄に戦う力も勇気も

無いくせに…家族とも言える彼女一人だけに

頼りきった…何て情けない…


「…ごめんなさい…テト…私は…やはり何も…

出来なかった…また…厄災を招いただけね…」


「そんな事は…!」


「それにね…あの龍にね…私は…呪われたの…」


「…何だって?」


鑑定を使用すると…キーケのステータスには確かに

龍の呪い…[接近禁止令]が表示されていた…

奴の目に映れば、それは死を意味する。


「…もうあの龍に近づけない…破れば…確実な死が待っているわ…そうでなかったとしても…私は…」


龍の怒りと殺意に満ちた目がこちらを睨んでいる…

無論それは過去の幻視だが、恐怖と絶望がそれを

未だに脳裏に焼き付いて…奴から目が逸らせない…



「うぅ…!?…おえっ…うぇぁ…!げほっ…!」


「キーケ!?落ち着くんだ!」



─────煉の巣にて…


(…よく考えたら私はもう人間じゃ無かったな…

サイズ差もあるのに…キレ過ぎて頭が回って

どうかしてたな…しかし…寝込みを襲う向こうにも

非はあると…思いたいが、どうしよう…菓子折り でも持って謝りに行くかな…?)


人類の敵と見なされたとは露知らず、能天気な

煉だが、彼には新たな課題が出来ていた…

あの猪を倒した後から動物がどんどんと数を

減らしていったからだ…


(…なんか…前世でこんな事あったな…)


ふと…前世の記憶を思い起こす…それは

食べ放題の店で飯を喰らい尽くして出禁になり、

しばらくしてその店が潰れた事だった…


(…もしここに経営者がいたら俺はこの森を出禁になってた訳だ…そうでなくともここは潰れるし…

もっと食える奴のいる所に引っ越なきゃな…)


背中にお手製鍋と僅かな食い物を背負い、大地を

踏み鳴らして森の外へと向かう…


(さて、森を出たはいいけど…一体どこに向かう

べきか…私くらいに巨大な生物が居る場所なら

食うに困らなさそうだが…)


煉は朱色の目立つ体色で平原のど真ん中を我が物顔で闊歩する…道中で獲物をついでに狩っては

スナック感覚で食っていく…こちらに気づいた

獲物達は一目散に逃げ…小動物をおもちゃ扱いしてでかい顔してる肉食獣もこちらを見れば

青ざめた顔で必死に逃げていく…が、

鍋をぶん投げれば簡単に仕留められた…

岩で出来ているだけあって案外固く、フリスビーの

様に獲物へ飛んでいくため中々便利である。


(しかし、どいつもこいつもビビりだし…

食べても腹が満たされん…あの猪みたいな大盛りの飯が沢山いれば嬉しいんだが…)


そんな事を考えながら…新天地を求めて歩く…


(おや…あれは…)


見上げた空には巨大な生物が羽ばたいていた。

自分と似た種族の様だが、向こうは四脚歩行の自分とは異なり脚は二本で鳥の様な造形だ。


(そういえば…ワニの肉は美味かった…あいつも

爬虫類みたいだし、是非とも食ってみたい…)


しかし、煉の翼には膜が無く…手のように物を

掴む他、獲物を倒す武器となる。

前脚では掻けない背中を掻くのに使う事も出来る。翼というより便利な腕という表現のが正しく空を

飛ぶことは出来ないだろう。


(…叫ぶだけで木を倒す程の生き物なら、翼を

全力でパタパタしたら飛べるんじゃないかな…?)


上空の竜に向かって跳び上がり、翼に力を込めて

バタバタと羽ばたく…翼から光が発せられ、

身体がふわりと空に羽ばたいた。


(…本当に出来ちゃったよ…骨格そのままみたいな

翼で私はどうやって飛んでるんだ…?

…深く考えるのはやめよう、腹が減る。)


初めての飛行とあって、翼をバタつかせるだけの

なんとも情けない飛行だが…その力任せな飛行で

雲の上まで飛行する竜に無理矢理近づいていく…


「……ギィッ!?」


しかし獲物は脅威に気づき、スピードを上げて

逃げていく…


(飛んでると照準が定まらねえな…こんなんじゃ

追いつけそうにないし…あ…そうだ!)


大きく息を吸い…竜に目掛けて咆哮する。


「グオオオアアアッ!!」


「!?」


竜が怯み、羽ばたいていた翼が止まって落下する。

しかし態勢を立て直して空に留まる。しかし

煉が放った翼の一撃が命中し、大地に叩きつけ

られる。


(何とか仕留めたが…飛ぶことに慣れないと満足に狩りはできないな…まあそれはそれとして…

このサイズの生き物が湧いてそうな場所まで

来れた様だな…)



獲物に夢中となっていたが…追い掛けていた竜の

住処は大きな岩山だ。嬉しい事ではあるが…

悪い事を思い出してしまった…


(やっちまった…鍋を放ってきてしまった…

また新しい物を用意しなくちゃな…面倒くせぇ…)


そんな時、後ろから音がした…



─────一方…



キーケ一行は龍の森から離れていた…


「悪いわね…最後まで迷惑をかけてしまって…」


「いや…あの龍の力を見誤った僕の責任だニャ…

キーケが気に病む事は無いニャ…」


「…呪いを受けたんですから…奴が倒されるまで

距離を置かないと……何も出来ずに震えるしか

出来なかった私が言うのもなんだけど…」


「あいつに勝てなかったから…俺達にできる事は

何だってしたいんです!護衛くらいは任せて

ください。」




(あの龍の隠された固有スキルを甘く見ていた…

キーケの攻撃を完全に無効化する程の力を

引き出すなんて規格外だニャ…それに加えて

呪いを掛ける様な狡猾さを持ち合わせている…

どの様に攻略するべきか…)


「グオオオアアアァ!!」


「この声は…!?」


「ひっ…あ…嫌…!死にたくない…!あ…」


ドシン!!



馬車の窓を開いて音の方を見上げる…そこから

轟音と共に飛竜ワイバーンが墜落して来たのだ…

あの忌まわしき怪物の姿と共に…


「なっ…何でここに!?」


「近づくなと呪っときながら…

何でこっちに来る!?」


龍は殺した飛竜からこちらに目を移す…


────


(…あの白髮の嬢ちゃん達…生きてて良かった…

謝るなら今しかないかな…しかし、

渡せるのは今狩ったこの鳥ドラゴンくらい…

そんなんじゃ不足して………あっそうだ…)


「クソッ…撤退を…!?」


目の前の龍はべきりと自分の角を折り始めた…


(なんなんだ…一体…!?)


突然の奇行に頭が真っ白になるテト…龍達の角は

他の魔獣と違って魔力制御を担う重要な器官…

角が折れた者はは弱者の烙印を押される…

プライドの高い真龍がその様な行いをするなど…

テトには理解が出来なかった…

龍は折れた角を爪で削ってから馬車の近くまで

投げ…頭を下げてから山へと去って行った。


(…これは一体何なんだ!?新しい呪いなのか!?

ハッ!そうだ!キーケは…!)


「…あ…テト…」


「キーケ!生きてるんだね!?大丈夫か!?」


「うん…私、死んでいないの…?」


鑑定に映った結果には呪いの消失が示された…

そして、龍からの恩寵が新たに宿っていた…


(意味がわからない…呪いを解いて…何故恩寵など

与えて角を折った…謝罪のつもりなのか…?)



────


(自分の角を渡すって…自意識過剰だったかな?

…指でも詰めれば良かったかね…角を折っても

痛みとか全く無かったし…でももう渡しちゃった

から…悩むのはやめよう…)


混乱するテト達を余所にして、煉は既に山での

食事の事で頭が満杯になっていた…


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