駅で別れようとしたが送らせてください一点張りでついてくる松方に根負けして、二人、あたしの家までの十数分を歩き出した。



「竹永さん、来週はシフト入ってるの一日だけですよね」



道中、松方が思い出したように確認してきた。


「ん、連休明けは本業が忙しくてなかなか入れられなかったんだよなー。それもあってゴールデンウィークバイトしまくったから良いんだけど…松方もあたしの上がり時間に合わせて教習所通ったならあんまり進まなかったんじゃないの」


松方は先月の宣言通り、時間の許す限りあたしに合わせて迎えにきてくれた。お陰でこの帰り道も一丁前に慣れた足取りだ。あたしも2回目くらいまでは次こそ迎えは要らないと伝えていたけど、それでも上がり時間になって事務所に入ると当然のように瑞樹さんに向かっていたり、課題なのか予習・復習なのかに手を付けている姿を見る内に大人しく送ってもらうようになった。


「それは大丈夫ですが…竹永さんの働き過ぎの方が気になりました」


「通常運転よ。性に合ってんだろーね。松方も通いすぎて瑞樹さんにバイト復活打診されたでしょ」


「まぁ…。短期ならアリですが完全な復活はもうないです」


「えー何で?」


言い切る松方。それはそれで寂しい。


「プライドです」


「ぷらいどぉ?」


「もう竹永さんのお願いでも“後輩”には戻らないと決めたので。…竹永さんに手を引いてもらうのではなく——竹永さんは僕の手が必要ないくらいしっかりしているから——せめて支えられるくらい、自立したくて」





『後輩に戻って』




あの時のあの言葉は、松方の中にも傷を遺してしまったかもしれない。




「手引いた覚えないけど。松方、入った時からリアルにあたしの50倍は要領良かったじゃん。

凛ちゃん先輩ですら手掛からなかったって言うと思うよ」



あたしがしっかりしている覚えもないし、松方ほどの人間に支えてもらうほどの人間でもない。


買い被りすぎだ、と声には出さず歩みを進めると、松方が立ち止まった。

あたしの家はもうすぐそこだ。




「竹永さん。西村さんと会ったのが偶然なのは本当ですよね」




「…え? あー、うん。本当だけど」



今度は何の確認なのか、振り返って返事して。

目に映った松方が先月、入学式後の雨の中、翠に借りた傘を差したあたしを見つめた姿と重なって。

やっぱり、小さく胸が痛んで歩み寄った。



「本当だよ。偶然」



繰り返す。こんな好い男がこんな表情して。ばかだな。



「どーせ松方にはもう、バレてるんだよな」



指先の軽い覚悟も、目の前の松方の圧倒的な重さを前にしたらなんとちっぽけなものか。


どうしたって恥ずかしいあたしは、そのままで松方の冷たい頬に手を伸ばした。



「そうだよ。松方と日帰り旅行行くから下着買ったんだよ」





「…………エッ…………」





え?






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