え? ええ? ちょっ待っ、…E?
何で今松方驚いた? だって察してたんだよね? 察してたけど優しさで思いやりの心で触れず突っ込まずあたしの鬼羞恥心が逸れるように他の話題を振るという大人な対応——エ? やめてやめて、で
な、にその
目を疑った。理解するには十二分の、たっぷりの間の最中、短く『エッ』と発した松方の表情は意外や意外、予想外もいいところ、赤くなり目も丸くなっている。なかなか見ないぞこんな表情。
スマホのカメラを起動したい衝動に駆られたが堪えて、網膜に焼き付けることにした。
「…僕との日帰り旅行の為に、したぎ…買ったんですか、竹永さん…」
ヤメロオオオオオ!!?
そこは改めて繰り返して言わなくていいんだよテメェ!!?
松方を超える顔面の赤さを叩き出したあたしは、今度はぶん殴りたい衝動を堪えるためにたった今震え出した右腕を押さえる。必死で押さえる。ワナワナワナ
「それ…?」
松方が指したのは、無論小ぶりな紙袋だ。もう今更隠すこともできない。が、「そうだよ〜えへ」などと頷くこともできねぇのよ。ならテメェはこれを何だと思ってたのよ。それを聞かせてくれよ。ちょっと今あたし口利けないけどさぁ。
「……っ」
「待ってください」
ハァ?
松方は勝手に、一足先に表情から照れを引き下がらせてガッ!!と効果音が聞こえてくるくらい、割と強めにあたしの紙袋を手にした手首を捕らえた。
「い、痛……何……見せないよ……?」
顔が恐い。
「それ、西村さんが先に見たってことですか…………??」
「イヤッ見てない、みてない」
魚〜〜〜〜!あっぶなぁ!凛ちゃん先輩あの時『買ってきた
おかげで今たった一人の竹永が救われました〜〜!!!!
「て。別に良くないか? こんな、中身おっさんの下着ごとき」
松方の赤面にまんまと釣られたが、ふと冷静になって気付いてしまった。
「は?」
急に恐さが増す松方。未だ離さない手首に込められた力も増して顔を顰めた。
「本気で言ってます?」
「本気も何も」
「なら煽ってるんですね」
「煽ってないわ」
やっと、すーぐそうやってあたしを自分の影に収めようとする松方の胸元を、ポカ、と叩けた。
「松方。家にも着いたから。
送ってくれてありがとう」
至って冷静な定型文を述べることができたと思う。松方の力が緩んだ隙に、紙袋を持った手を引いて踵を返し、後ろ手で手を振った。
「じゃあ、また。気をつけて帰りなね」
本当は、全速力でダッシュしたいのを堪えて。
次に会うのはその日かもしれないのに—どんな表情をしているのかと思ったら、自分はどんな顔を見せてしまうことになるのかと思ったら、松方が見れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます