「あ。桃ちゃん・THE・END」


「…桃理、童貞でもねーのに何でそんな過剰反応」


「身内だからじゃね」


噴火を遂げた桃ちゃん。梶と凛一の推測にわなわな震えている。



「テメェ…。竹永さんに何す、してる気だ! ちねー!!」


「噛みまくっとる」


「まーまーまーまー。桃ちゃんもこっち来て座りな? ごめんね? 梶と童貞日本代表の凛一が盛っちゃって」



「ッハア~~~~!? おまえまだそれ言っ」


「ヨッ日本代表! 性に関心のない初心な天使・桃ちゃんとは違って、性に対しての興味関心意欲が五段階評価の十だからさ~」


「じゅっ十もね~~~~よ」



…まあ実際十もあるのは凛一の場合、熊谷の方かもしれないけど。



「でも、梶が何でそれ?」


いつの間にか俺の手元にあったさくらんぼを全部頬張りハムスターになっている梶に問う。…え、まってウソでしょ。俺の分は?


「たふぇなふぁふぁ」


「…」


この隣の席のハムスターの頬袋を握り潰そうかと思ったが、瞬時に「竹永さんが?」と反応を示した松方の方が怖かったから、うん。この場の最年長は空気を読みました。そもそも、二十歳前後の健児にもうすっかりレベル上げされまくった俺が混ざっていること自体痛々しいって薄々気付いてたよ。言われなくても解ってたよ。レベルってアダルトレベルね。でも退席するのもおかしくない? だってここ俺の居場所だもん。


「最近、竹永の挙動がおかしいとは思いつつ気にしてなかったけど、何か急に訊かれたんだよ。



『かっ…か——じはさ〜。


…付き合い始めてどれくらいで致す?』って」




イタス……!



おお竹永よ……。




「あ、やべ。これ松方に言っちゃだめなやつ?」



梶よ……。



つーかおまえさくらんぼの種どうした? 全部飲んだんか?


竹永の気まずそうに汗を飛ばして上唇を尖らせた顔と後半の小声×早口を真似した梶。俺は思わず頭を抱えたけど、凛一は椅子から転げ落ちるくらい爆笑しているし桃ちゃんは真っ赤になったまま開いた口が塞がってないし、松方は、



「それで梶さんは何と答えたんですか?」


「面白いから『その日』って言った」



ジーザス……!!



「アハハハハハハ!!!! ヒーッ」


とうとう凛一は椅子から転げ落ちた。うるせーな。まだ営業中なんだが。



「その時は竹永、案の定目が画鋲の跡くらい小さな点になって、動かなくなって。どうするかなーって思ってたんだけど、また次会った時には持ち直してて。何ならメモ持って更に色々訊いてくるようになったから困ってた」


梶が松方見つけて開口一番あの台詞だったのはそれが理由だったのね。



「更に色々…」


ポツポツと呟く松方。全部食べて全部言いよった梶も流石に気まずそうな表情を浮かべたかと思いきや「で、松方にその気・・・がないのかと思って」と鋼の心臓で続けている。




「ないと思いますか」



何と松方は予想外も予想外、にっこり笑ってそう返した。




こ、



怖————!!!!



事務所が丸ごと氷河期に入ったその瞬間の後、素に戻った松方の耳が何かを拾って振り返った。




「竹永さん」



「!!?!?」


今度こそ流石に、松方以外の野郎全員が肩を揺らした。




「……っき、く、つもりは」



事務所とキッチンを繋ぐ出入り口には、何故かホールケーキを両手に、首から顔まで真っ赤に染め上げて突っ立つ竹永の姿が在った。

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