第二十九話 - 永遠の末期
【瑞樹視点】
4月下旬、数分前。久々の感動の再会とは微塵も思えない仏頂面が事務所に覗き、早速わぁ面倒くさぁ〜と仰け反りたくなった。
「竹永さん、上がりまだですか」
「まだだよ。時計見て。確かに呼んだの俺だけど来んの早過ぎんのよ。1時間以上も早く来て働く竹永眺めるのやめな? 出禁にするよ?」
「本当は入りから居たいですが…。ちゃんと客としての責務も果たしました」
「ご飯食べたこと言ってんの? 食べたら引っ込んでろって竹永に言われたんでしょ」
「働き難いから瑞樹さんの相手しててと言われたんです。かわいかった」
全力でこのボ○ビー擦り付けてくる竹永も失礼だけどこいつは永遠の末期だな。
松方は二年振りとは思えない態度で配置の変わらない事務所中央、今俺が座っているテーブル席の斜め向かいの席に腰を下ろした。前もよくこの席で竹永を待ち伏せしていた気がする。光景がデジャヴだ。
まぁ確かに…外見は立派に成長したように見えるけど。
「何ですか」
「いやー? 竹永がこの年下小僧と続くのは意外だと思っただけ」
「どういう意味ですか」
松方は半分、竹永の前ではお利口ぶって見せないであろう本性を覗かせる。
「一学年しか変わりませんけど」
真っ黒な眸から“喧嘩売ってんの”と聞こえてきそうで末恐ろしい。
「学年はね。竹永が
「竹永さんの誕生日知ってるマウントやめてください」
ほらぁ。言葉の選択結果それ? 外見だけだよ成長したのー竹永ー? と呼びかけたくなる。
「だって俺毎年誕生日プレゼントあげてるもーん」
松方より早くからね。と思ったけど言ったらここが血の事件現場になりかねないから心の内に留めておこう。
「何あげてるんですか」
「…何か、寝る時頭に被るやつ」
「何ですかそれ」
「シルクの…摩擦軽減の? 竹永、髪長くて枕カバーから髪はみ出すからって高一の時、お近付きの印も兼ねて何が欲しいか訊いたら今パッと思い付かないから一晩悩んでいいか聞かれて、搾り出し強要しておきながらどんな高い物が来るかと思ったら、それ。そこから毎年、俺が新調してるんだよね…1回目の時12枚渡したら多過ぎて引いてたから2回目から6枚セットで」
物欲のない竹永が一晩悩んで搾り出した、俺にはよくわからないそれ。竹永は毎年どんな色が来るのか楽しみだと照れくさそうに受け取ってくれる。
「あー」と頷いた松方。思い当たる節でもあるのか。しかしその下の拳がギリィ…と聞こえそうなくらい硬く握り締められていて感情がよくわからない。こわい。気になってそうだったからぜんぶちゃんと話したのに。
「去年はクリームみたいな色でした?」
「見たのね…そー、去年は竹永、高校卒業して髪明るく染め直した後だったから似たよーな色にした、確か」
「…」
不貞腐れている。
「…サプライズが好きって女の子も“予期せず”が嬉しいのであって、何を貰うかに関しては何でも良いわけじゃなくてそこはしっかり相手の欲しい物を知っている程度の関係性は必要だと思うんだよね」
一応、一昨年の竹永の誕生日の時の、松方の話をしているのだけど。「はぁ」と適当に流す松方がそれに気付いているのかはわからない。
「だから俺は竹永本人に訊くのが一番良かった。でも、まー竹永は別にサプライズが好きって感じでもないかもだけど…竹永がサプライズで何を貰ったとしても手放しで喜ぶのはおまえくらいだと思うよ」
「勝手に慰めないでもらえますか」
ちっともかわいくない元バイトだ。
多分竹永なら、松方からの誕生日プレゼントがどんぐりでも喜ぶ。喜んで、枕元に飾ってくれたりする。
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